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ワンダと巨像
 前作『ICO』の発売から4年。その『ICO』との共通点も多い『ワンダ』の気になる“つながり”について、ディレクターの上田氏、プロデューサーの海道氏に語っていただいた。いよいよ発売を間近に控えた『ワンダと巨像』の貴重なインタビューをお届けしよう。
  ※このインタビューは、電撃プレイステーションVol.328で掲載されたインタビューの完全版です。


●『ICO』と共通する世界観に隠されたもの
――『ワンダと巨像(以下、ワンダ)』は風景や空気感、主人公の服装などが『ICO』に似ていますね。
上田文人氏(以下、上田。敬称略):
『ワンダ』は、開発の初期段階は“NEXT ICO”の略で『NICO』と呼んでいました。次の作品は『ICO』の経験をふまえ、新しいことをしたいと思っていたからです。とはいえ『NICO』はあくまで仮のプロジェクトネームで、名前が変わることは最初から決まっていたんですよ。
――『ICO』との時代や舞台としてのつながりは?
海道賢仁氏(以下、海道。敬称略):
世界については直接的ではないですが、微妙につながりがあるように見えます。ワンダの衣装デザインや“天の声”の言葉など似ている部分もあります。『ICO』をプレイした人なら、すんなり世界に入っていけると思います。
上田:時代に関しては……ナイショです。ひょっとしたらイコとヨルダが成長して「古えの地」にきたのかもしれませんし、まったく関係がないかもしれません。
――巨像を倒したときに発生する黒い霧のようなものも、『ICO』の敵を連想させますね。
上田:はい。そのあたりはプレイを進めながら、いろいろ想像を巡らせて楽しんでほしいところです。

●「古えの地」に住まう巨像とは?
――『ワンダ』の冒険の舞台となる「古えの地」ですが、いったいどんなところなのでしょうか?
上田:ひとことで言えば、外界から隔絶された世界です。人間たちは「古えの地」に住む巨像たちのことを“大いなる存在”として認識しています。
――“大いなる存在”とは?
海道:一部の人間にとっては神かもしれないし、逆に災厄を呼ぶ悪魔のように思われているかもしれません。普通の人は恐ろしくて「古えの地」に近づかないんですよ。
上田:それで「古えの地」には人間がいないんです。でも、これにはゲームデザイン上の理由もあります。フィールド上に人間を配置すると、どうしても会話をさせないといけないですよね? すると会話をしないと先に進めなかったり、そのために馬から降りて……というようにプレイのテンポを妨げてしまうんですよ。本作では、広大なフィールドを馬に乗って駆け抜ける爽快感を大事にしたかったんです。それで「古えの地」は、人がまったく住んでいないということにしています。
海道:そのかわりトカゲやハト、亀など人間以外の生き物は出てきますね。冒険に疲れたら、これらの生き物に注目すると……ちょっといいことがあるかもしれません。
上田:そうですね。でも彼らをあまりいじめないでほしいです。貴重な生き物ですし(笑)。

●巨像との戦いは“巨大なパズル”
――実際にプレイしてみると、巨像にたどり着くまでのルートは思っていたよりも障害が少ないですね。
海道:『ICO』をプレイしていた方は、巨像を倒すまでにさまざまな謎解きやアクションが必要になると思われるかもしれません。でも、『ICO』の謎解きに当たる部分が、『ワンダ』では巨像との戦いに集約されているんですよ。巨像の弱点を探し、そこに行くこと自体がもう“巨大なパズル”と言っても過言ではないですから。
上田:とにかく、ボス戦のオンパレードのような形にしたかったんです。それで巨像との戦いに集中していただくために、道中はすんなり行けるようにしてあります。でも、巨像との戦いで特定のアクションが必要になる場合は、そのアクションを思い出していただくためにちょっとした障害を用意してあります。
――巨像の体を「つかんで」登ることと、腕力メーターの存在は開発当初からあったものですか?
上田:そうですね。とくに腕力メーターは、ほかのどのアイデアがボツになっても絶対に必要だと思っていたものです。腕力メーターのおかげで、ワンダを振り落とそうとする巨像にしがみついて必死に耐えるときの緊張感がうまく出せました。
――巨像との戦いで悩んだときの突破法は?
上田:まずは剣の光を当てて弱点を探すことですね。弱点がわかると、ルートを見つけやすくなります。光を当てなくても、剣を持った状態で弱点の近くに行くと弱点部分が光るのでそれで探すのも1つの手です。
海道:少し遠いところから巨像を見てみるのもいいですよ。地形などを利用することも大切です。また、時間が経つと教えてくれるヒントも手がかりになるでしょう。
――巨像との戦いでは、巨像の登場シーンやカメラワークなどの演出も凝っていますね。
上田:巨像の持つ「巨大感」を最大限に発揮できるようにカメラワークにはかなりこだわっています。巨像が攻撃するときは圧倒的な質量がワンダに襲いかかってきます。それで、地面を叩いたときに腕や足が振動するようにして、重量感を出しました。また、アクション時にも巨像のモーションがズレないようにしてあります。モーションがズレてしまうと、とたんにリアリティを失ってしまいますから。
――巨像を下から見上げるアングルなどは、怪獣映画などを連想させますが、参考にした映画はありますか?
上田:昔からレイ・ハリーハウゼン監督(「タイタンの戦い」などで知られるSF映画の巨匠)が好きなので、彼の作品は参考にしている部分があるかもしれませんね。
――3Dアクションでは定番の「主観視点」は本作ではありませんが、採用しなかった理由は?
上田:確かにフィールドを移動するときや、巨像を弓で狙うときは主観視点があると便利ですね。技術的には当然可能なんですけれど、『ワンダ』では巨像の体毛につかまるシーンが多いんですよ。主観視点で巨像の体毛につかまると、目の前が毛のアップになってしまって状況がわからなくなってしまうんです。かといって、「巨像につかまるときは主観視点が使えない」という中途半端なことはしたくない。そこでチームで相談した結果、主観視点は使用しないことに決めました。
――ほかに演出といえばBGMの使い方も独特ですね。
海道:フィールド上での移動は風の音などの環境音と、ワンダやアグロの声といった効果音のみ。巨像との戦いは一転して重厚な感じのBGMが流れるようになっています。『ICO』でも同じような手法を使いました。
上田:巨像と出会ったときや、巨像の仕掛けを解いて体につかまったときなど“節目となる場面”でBGMが変わるようにもしています。また、同じ場面でも巨像のイメージによって何種類かの曲を使い分けていますので、そのあたりにも注目してほしいですね。本当は「ワンダが巨像のどのあたりの位置にいるか」などを察知して、曲のテンポや種類が変わるようにしたかったんですが、容量的に無理でした。曲なども巨像ごとのイメージに合わせて作ってもらっていただけに非常に残念です。
――愛馬・アグロの動きや操作もリアルですね。あれは実際の動きをキャプチャーしたのですか?
海道:動きはアニメーターが作ったもので、モーションキャプチャーは使ってないですね。でも、開発スタッフのみんなで実際に馬に乗って乗馬する感覚を肌で感じることはやりました。車やオートバイと違って、馬は自分でも考えて動きますからね。騎手がお腹を軽く蹴って、馬はそれを合図に進みます。合図を出してから動きだすまでにワンテンポ遅れたり。そういった感じを出すために、操作方法も実際の騎乗法に近くなっています。
上田:もともと馬に乗れるようにしたのは、広大なフィールドを進むのに便利だったからというほかに「絵になるから」というのも理由です。草原に青年が1人でたたずんでいるよりは、馬がそばにいたほうが絵が締まるんですよ。『ICO』でもそうだったんですが、ゲームシステムをデザインする上で、こういったイメージからゲームを組み立てていくことが多いですね。
――ムービーでは馬の上に立ったり、馬のお腹に張り付くアクションも見えましたが製品版でもできますか?
海道:もちろん、できますよ。どうすればできるかはまだ秘密ですが、移動中にいろいろ試してください(笑)。
上田:本当はそれを使って戦う巨像を用意する予定だったのですが、諸事情でボツになってしまったんですよ。でも、アクション自体はおもしろいので残しました。こういう「お遊び要素」は結構あります。
――『ICO』であった隠し武器や2周目以降の隠し要素のようなものもありますか?
上田:条件などは、まだお話できませんが『ICO』よりも豊富に用意してあります。期待していてください!

●妥協しない姿勢が前例のないゲームを生む
――本作の開発でもっとも苦労した点を教えてください。
上田:『ワンダ』は「見上げるほど大きな巨像を実際によじ登りながら戦う」というコンセプトからシステムにいたるまで、すべてが“前例のないゲーム”です。全部の要素をゼロから作り上げていくので、その点はかなり苦労しましたね。ゼロから作ることは悪い面だけではなくて「制約に縛られない」という、いい面もありますので納得のいく作品が作れたと思います。
海道:私はチーム全体の進行管理を行っているのですが、“前例のないゲーム”というのはスケジュールを立てるのも難しいんですよ。新しい変更が加えられるたびに、それに対応したスケジュールを見積もるのは大変でした。実際にはなかなかスケジュールどおりにはいかなかった面もありましたが、予定を立てることである程度の目安になった部分もあります。ゲームは時間をかければかけるほどいいものになりますが、予定を組まないといつまでたってもゲーム自体が完成しませんから(笑)。
――最後に読者に向けて本作の魅力とメッセージをお願いします。
海道:ギリギリまでブラッシュアップをして、期待を裏切らない完成度を持っている作品です。巨大な怪物に登って戦うというコンセプトや映像に興味を持たれた方は、ぜひ本作を手に取ってもらいたいと思います。
上田:『ICO』は、ほかのACTでいうところのHPをヨルダというAIで動く女の子に置き換えた作品でした。対する『ワンダ』は、ステージそのものが巨像というAIキャラクターに置き換えられたものです。『ICO』では味方、『ワンダ』では敵と立場は異なりますが、なかなか思いどおりにいかないAIキャラクターとの、“戯(たわむ)れ”を楽しんでみてください。『ワンダ』の制作期間はずいぶんと時間がかかってしまいましたが、今はとにかくゲームが完成したことにホッとしています。お待たせしたぶん、クオリティの高いものに仕上がっていますので、『ICO』を遊んだことのない方も遊んでもらえればと思っています。

 


上田 文人 氏
上田文人氏
SCE
第1制作部ディレクター 

 ゲームコンセプトからシステムにいたるまで、本作に関わるすべてに携わる。好きな巨像は、ミノタウロス型の巨像。理由は最初に出会うタイプなので、巨像の持つインパクトを出すために苦労したことから。
海道 賢仁 氏
海道賢仁氏
SCE
第1制作部プロデューサー

 開発チームのビジネス的な部分や、スケジュールの調整といったマネジメント部分を担当。好きな巨像は巨大ワーム型で、飛行タイプの巨像もオススメだと語っている。

ワンダと巨像
画面写真
■メーカー:SCE
■対応機種:PS2
■ジャンル:A・AVG
■発売日:2005年10月27日
■価格:7,140円(税込)
■関連サイト:・公式サイト / SCE

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