『アナザーコード:R』
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鈴木理香氏
金崎泰輔氏
生田良子氏

今までの任天堂のゲームにない新しいキャラクターを作りたい

――『アナザーコード:R 記憶の扉』の前作となるDS版『アナザーコード 2つの記憶』を、シングさんが制作して任天堂さんが販売することになった経緯をお聞かせください。

鈴木氏(以下敬称略):シングは、1999年に設立されたデベロッパーです。DSが発売される前年(2003年)にオリジナルのゲームを作っていくうえで、任天堂さんに思い切って企画書を送ってみました。その後、DSの発売が発表されるちょうどその日に任天堂さんへおじゃましていたところ、「DSの2画面、タッチパネル、マイクの機能で企画ができますか?」という話になり、DSのソフトとして改めて企画したのが、前作の『アナザーコード』です。

――前作の『アナザーコード』の発売まで、しばらく任天堂が発売するアドベンチャーゲーム(以下AVG)ってなかったですよね。

鈴木:任天堂さんとのお話のなかで「AVGはプレイして消費されるだけのゲームになっていませんか?」と言われたんです…やり終わったらもうプレイしてもらえないという意味で。ただ、私たちシングはAVGの制作を得意としていましたし、社長の宮川が「いや、そうではない。ゲームというのはなによりもまず満足感が大事、AVGでも満足感を与えられる」という主旨のお話をして。さらにDSの機能を使ったいろいろな謎解きの要素を提案して、なかでもスクリーンの××××を利用した謎解きを、任天堂の方がとても驚かれ、また評価していただいたので、それで改めてプレイヤーに満足感を与えられる、という手ごたえをつかみました。またそのとき任天堂さんから「AVGでも世界中で売れるゲームにしてほしい」とのお話もあり、そのつもりで『アナザーコード』の企画を出したということもすごく印象深いです。

――舞台がアメリカで、主人公が14歳(前作での年齢)の女の子のアシュレイというキャラクター設定の理由もそのあたりに?

鈴木:そうですね。それまで自分たちが作ってきた作品は大人向けのソフトばかりで、自分が女だから、あえて自分が魅力的に思える男の人を主人公にしてきたんです。けれど、『アナザーコード』では、生まれて初めて女性が主人公の物語にしました。自分が年齢を重ねてやっと女性を書ける歳になったからかもしれないんですけど(笑)。で、そのときに一番わかりにくい年齢にしようと思ったんですよね。14歳って難しいじゃないですか、大人でもないし、子どもでもないし、男でもないし、まだ女でもないかもしれない。だから、そういう難しい年齢の少女をあえてクローズアップしてみたらおもしろいんじゃないかな、というのがアシュレイというキャラの始まりでした。あと、任天堂さんとお仕事をしていくのであれば、今までの任天堂さんにはないキャラクターを作りたい、というのもシングの目標でした。

アシュレイの世界が広がり彼女自身が成長していく

――前作の制作段階で、続編…つまり今作のストーリー設定はある程度でき上がっていたのですか?

鈴木:私たちシングがゲームを作るときは、毎回そうなんですけど、できればシリーズ化したいと思って作っています。それは、ただシリーズものを作りたいという話ではなくて、作り上げた世界観や主人公を成長させたいという気持ちが常にあり、「この人たちはこのあとどうなるんだろう?」というところまでいつも考えています。主人公のアシュレイをこのままスターにしてやりたいよね、と思いながらゲームを作っている感じですね。

――アシュレイの成長というお話が出てきましたが、前作の14歳から今作の16歳のアシュレイは、ずいぶん成長しましたよね。

金崎氏(以下敬称略):ええ、そうですね。今回のアシュレイはかなり成長して女性っぽくなってます。髪型は変わってないんですけど(笑)。より女性っぽくなりながらも、とっても元気な感じになってますね。

生田氏(以下敬称略):2年間の成長の過程が見える感じがしますよね。

鈴木:前作よりハッキリと自我が確立したのでしょう。14歳の前作では自我が芽生えかけたころなんですね。挫折や葛藤、苦悩や自分の喜怒哀楽など、複雑な感情を持つようになったんだと思います。そのアシュレイの複雑な感情を表現するのに金崎といろいろね…(苦笑)。

生田:いろいろなやり取りがあって、本当に時間がかかりましたよね。

鈴木:かかりました(笑)。洋服だけでもだいぶ時間が…。

金崎:洋服が一番時間かかりました。16歳のアシュレイはいったい何を着るんだろうって。

鈴木:彼女の嗜好や見た目、趣味の音楽だけじゃなくて、ファッションにしても今回彼女はピアスをしてるんですよね。というのは、前作が発売されるまでHPで公開していたアシュレイの日記にも書いてあるのですが、ショッピングモールでこのピアスを彼女は2年前に見つけたんです。そのときに、誕生日に買ってもらうことは簡単だけど、彼女は自分でアルバイトして買おうと思った子で。あれから、アルバイトして買ったピアスだったりするんです。ノースリーブだったシャツがタンクトップになって、ちょっとネックレスなんかつけちゃったりしてね。

金崎:そうですね。前作ではバストアップだけだったのですが、今作では3D化されましたので、活動的にして格好も今風の女の子に…。

鈴木:でも、今のアメリカの女の子って結構大人っぽいんですよ。

金崎:アメリカの16才ってそうとう大人っぽいですよ。だから、それで1回作ってみたらアシュレイがあまりにも大人っぽくなりすぎて、なんか、こう違うんですよね。現実の16歳よりも1~2歳幼くしておかないと大人っぽくなりすぎちゃうんです。だからといってアシュレイは、 露出はあるけどそんなに短いスカートをはいたりするようなキャラクターじゃない。やっぱりGパンで活動的で元気な女の子というところを崩さずに。

鈴木:彼女ってこう、明るくて普通の子に見えるんですけども、じつはちょっと他人との間に距離感があるんですよ。生い立ちのせいでしょうかね。じつは、そんなにあけっぴろげじゃなくて、ちょっとさみしがり屋だったりするんです。そういう意味では、クラスに友だちがいたらクラスの真ん中にバーッと出ていってギターを弾くんじゃなくて、クラスの隅のほうでギター弾いてるっていうタイプなんだと思うんですよね。

金崎:周りを意に介さないタイプでもない。

鈴木:流行の先端を走っている子じゃないけど、はずれるのはちょっと恥ずかしいと思っているくらい、とても普通な子だと思います。

──プレイしてみて2年間の成長で意外だった部分がバンドをやっているということなんですが、この2年間の間にいったいアシュレイに何があったんでしょう(笑)。

鈴木:アシュレイが自分で自分の道を探した結果じゃないですかね。彼女はいろんな人に振り向いてもらいたい子なんだと思うんですよね。だから、バンドをやっていることは若い子の素直な気持ちです。目立ちたいし親からも気にしてもらいたいし、それには普通のことをやっていては誰からも気にしてもらえない。彼女は本質的にさびしがり屋な子だから、仲間といっしょに演奏できるバンドをやってる…でもじつは、それはパパの血と一緒だったと知って彼女は愕然とするんですよ(笑)。よく金崎と「母親のサヨコが生きていたらアシュレイはどんな感じに育ってたのかな?」っていう話をしたんですよ。生きていたらサヨコが意外とキャリアウーマンになってリチャードとうまくいってなかったかもしれないし(笑)。違う家庭環境になっていたかもしれない。そうやって社内だけでなく任天堂さんともセッションしながら、「アシュレイはそんなことしない!」とか「アシュレイはそんなこと言いません」とか言われながら、いろんな意味で皆さんに作っていただいているキャラクターがアシュレイだと思うんです。たった2作品にしか登場していないんですけど、思い入れが非常に強いので、彼女をどうやって表現しようかと何回も考えましたね。

──みなさんのお話をうかがっていると、アシュレイというのは一人の人格を持っている感じがしますね。

生田:私のなかにも、鈴木さんのなかにも「アシュレイはこういう人物」というイメージがあって、シングさんと話し合いをしながら、ゲームが出来上がっていく過程でアシュレイに今まで以上の魅力がどんどん出てきました。枠にとらわれない子というんでしょうか、どんどんアシュレイの世界が広がって深くなっていって、彼女自身が成長していくという。

鈴木:幸せですよアシュレイは。スタッフの方に愛されているんで。私にとっては、とても世話のやけるタイヘンな子なんですけど(笑)。任天堂さんに対して感じるのは、キャラクターやゲームに対してものすごく愛が強いんです。これはぜひ書いてほしいんですが…これはデベロッパーとしてはとても重要なことなんです。昨今は、ただ作られているだけのソフトが多いと思うんですよね。作り手に愛されているソフトにこそ、ユーザーに愛を伝えられる力がある気がするんです。そういう意味でも、『アナザーコード』は、じっくりゆっくりゲームを味わいながらプレイしてほしいソフトだと思います。 ――(続く)

2月21日発売の電撃DS&Wiiでは気になるインタビュー全文を掲載