●リアル路線から一大転換を図った理由とは?
──まず、『大神』の企画が動き始めるまでの経緯を教えてください。
稲葉敦志氏(以下稲葉、敬称略):『大神』が始動したのは、『ビューティフル
ジョー』が一段落した直後くらいではないでしょうか。神谷に質問したんですよ。「何かやりたいものはないか」って。そうしたら……。
神谷英樹氏(以下神谷、敬称略):以前から、漠然と“大自然”をゲームで表現したいと思っていたんですよ。ちょうどそのころ出た『biohazard』のリメイク作のグラフィックを見て、このクオリティでCGが作れるなら“大自然”だって表現できるんじゃないかな、と思いまして。
稲葉:と、こんな感じで即答されました(笑)。
神谷:僕は長野県出身なんですが、カプコンに入社して都会で暮らすようになってから、どうも慣れないというか、故郷が懐かしくて。だから、あの大自然をゲームで再現したかった、っていうのが、本作の企画を出したきっかけなんですよ。
──最初は映像がリアル路線だったそうですが?
神谷:そうですね。でも、それはすぐ壁にぶつかりました。社内でのプレゼンテーション用に、自然が爆発的に広がる“大神降ろし”の映像を作ったんです。それ自体はすごくうまくできたんですが、実際にキャラがフィールドを移動する映像は、どうにも中途半端なものになりまして。これはハード自体のスペックの問題だったので、どうすることもできなかったんです。ここで早くも、開発的には転換期を迎えました。そんなとき、スタッフの1人が毛筆のタッチで描いた白いオオカミの絵を持ってきたんです。それがとても魅力的で、ほかのスタッフとも相談した後、これを採用することになりました。
──アマテラスが白いオオカミの姿をしていることに、なにか理由はあるんですか?
神谷:これは、僕のイメージが元になっています。学生時代に、とある写真作家さんが撮った、白いオオカミの写真集を見たことがあるんですよ。そこに写った、厳しい自然のなかで生きるオオカミの姿やたくましい生命力が、僕の中ですごく強烈な印象として残っていたんです。それで、大自然を舞台にするなら、やっぱり主人公はオオカミかな、と思いました。ちなみに余談ですが、カプコン入社時の課題で、オオカミを主人公にしたゲームを提出したこともあったりします。
──それは、いったいどんなゲームですか?
神谷:単純な横スクロールタイプのアクションゲームなんですが、ところどころに自然と触れ合えるポイントがあるんです。ステージ中に大きな花が咲いていて、のぞき込むと蝶が出てきたりとか(笑)。そうして進んでいくと、最後にボスのトラが出てきて。そこでいきなりゲームっぽくなる、という内容でしたね(笑)。
──それが『大神』の原点になるのでしょうか?
神谷:大ふろしきを広げるなら、そういうことになりますね(笑)。
──企画の初期段階から、すでに世界観は決まっていた、ということですか?
神谷:いえ、そういうわけでもないですよ。初期の構想では、人間はまったく登場せず、オオカミの群れが、大自然を舞台に生き抜いていくという飾り気のないシミュレーションゲームだったんです。そのせいか、スタッフからは「華がない」といわれて不評でしたけどね(笑)。そこから紆余曲折を経て、次第に現在の『大神』になっていったというわけです。ここまで開発に時間がかかるとはちょっと思っていませんでしたけど(笑)。おかげさまですごく納得のいくゲームに仕上げることができました。
●『大神』の世界を彩る登場人物たちは、こうして生まれた!
――「スサノオ」や「クシナダ」といった、神話をモチーフにしたキャラを出すことは、どのような経緯で決まったんですか?
神谷:先ほどいったように、当初僕は人間を出すことはまったく考えていませんでした。メインではなく、自然を荒らす邪魔者として出すことは考えていましたが。でも、スタッフの「人工物がないと、自然の美しさが映えない」という意見を聞いて、なるほどと思ったんです。確かに、絵のなかに橋や家があったほうが、より自然が映えると思ったんですよ。そのころには、和風の世界観でやることが決まっていて、オオカミたちには神話にちなんだ名前が付いていたので、それを流用した人物を登場させることにしました。おとぎ話から名前を使うことを決めたのも、ちょうどこの時期ですね。
――各キャラのボイスが肉声ではなく、声を加工して肉声に似せたものにしているのはなぜですか?
神谷:本当は肉声もやってみたかったのですが、ちょっと時間がなくて……。セリフのテキストを最後の最後までいじってましたからねえ。
稲葉:それと、登場キャラの多さも理由の1つです。
──登場キャラは総勢何名ですか?
神谷:だいたい250人くらいですね(笑)。
稲葉:そんなに声優さん雇えませんから(笑)。でも、あれは結果的にこのゲームの世界観にすごくマッチしているので、やってよかったと思っています。
──登場キャラたちについてですが、どのキャラもとても個性的ですよね。
神谷:人間を出すと決めた以上は、ただ情報をたれ流すだけの存在にはしたくなかったんです。そこで生きて、生活しているという感じを出したかった。この点は、デザインのスタッフに助けられましたね。だって、どれもヘンテコなカッコした人ばかりなんですもん(笑)。ひと目見れば、それだけで印象に残ります。「こんなヤツラが普通にしゃべるわけない」ということで、セリフにも個性を出しやすかったです。
稲葉:キャラのセリフは全部神谷に書いてもらったんですが、僕の方から口出しすることもほとんどなくて。いい感じに書いてもらえましたね。
──登場キャラといえば、アマテラスの相棒・イッスンの存在が非常に印象深いですね。
神谷:当初は、アマテラス1人で旅をする予定だったんですが、物語のナビゲーター役を出そうという話が、スタッフのほうから出たんです。とはいえ、ただの紹介役では味気ないので、出すか出さないかはすごく迷いました。でも、物語に深く関わってくる人物を選べば、シナリオもふくらむんじゃないかと考えたんです。いざ、誰をアマテラスの相棒にしようかという話になったとき、適当に「子供だけど女好きで、口が悪くて…」と、思いつく限りの個性を並べたら、スタッフに大ウケで(笑)。そして、体の小さいイッスンに白羽の矢が立ったんです。
稲葉:イッスンは、じつは物語の後半で登場する予定のキャラだったんです。ですが、ナビ役に抜擢して正解でしたね。ストーリーを最後までプレイしてもらえばわかりますが、もうイッスンなしでは成り立たないお話になっています。スタッフにすごく人気があるキャラなんですよ。
神谷:僕もイッスンは大好きです。彼には開発中も、ずいぶん助けられましたからね。なにせ、セリフを書いてて楽しいこと楽しいこと(笑)。おかげで、煮詰まったときは彼の
セリフを書いてストレスを発散してましたよ。開発が行き詰まって、会社に行くのが億劫になりかけたときでも、「あ、今日はイッスンのテキストを書く日だ」と思えば、不思議と元気が出たりしたんですよね。
――イッスンは電撃プレイステーションの攻略班内でも、1番人気のキャラでした。あと、敵キャラのデザインもかなり凝っていますよね?
稲葉:敵のモチーフは妖怪ということが早い段階から決まっていました。妖怪というのは、神話やおとぎ話などの文章では残っていますが、絵で描かれていることは少ないんですよね。なので、文章をこちらで解釈して自由にデザインすることができました。たとえば妖怪“ヌエ”は、胴体がタヌキの怪物といわれてます。それなら、「胴体がタヌキなら、茶釜をかぶせてしまおう」という発想が生まれるわけです(笑)。こういった、ある意味こだわったデザインが妖怪たちにはなされているので、戦うときはぜひ注目してほしいですね。
●最大の難関・筆しらべ──その誕生と完成への道のり
――それでは、本作独自のシステムのなかでもとくに印象深い「筆しらべ」の誕生秘話を教えてください。
神谷:筆しらべが生まれたのは、一昨年の秋くらいですね。ゲーム内容はまだ、オオカミの群れを操作するシミュレーションゲームのままでした。この時期には、稲葉のほうに毎週開発状況をチェックしてもらっていたのですが、どうにも反応が鈍く、何度もイヤな汗をかいたのを憶えてますよ(笑)。
稲葉:あの頃見せてもらったものには、どうにもピンとくるものがなくて。スタッフも煮詰まって、すごく苦しかった時期だと思います。
神谷:いろいろなシステムを考えたんですが、説明しているうちに自分でも何が何だかわからなくなって。そして、今やっているものではダメだと思い、スタッフに召集をかけ、緊急ミーティングに入りました。そこで「森羅万象を操るのが神の力」というスタッフの意見を聞いたとき、毛筆のタッチと筆で描いて奇跡を起こすというイメージがガッチリとかみ合い、筆しらべの骨格が完成したんです。しかし、それを形にするのがまたひと苦労でしたけどね。
稲葉:最初は、筆しらべのアイコンを選択し、筆さばきを自動で行うというものだったんです。これでは、コマンドで魔法を選んでいるのと同じで、せっかくの筆しらべが生かされていないように感じました。
神谷:それを指摘されたあとは、実際に筆で描くことへの挑戦が始まりました。最初はまったく思うように描けず、難しすぎるのでは? と不安に思ったものです。しかし、慣れれば普通に図形を描けるようになることがわかったので、あとは演出面に力を入れ、失敗してもなんらかのリアクションが起こすようにしました。こうして現在のような筆しらべが完成したんです。
──筆しらべの内容は、どのように決まったんですか?
神谷:自然現象を操るということで、アイデアはドンドン出ましたよ。能力は13種類ありますが、ちょっと多すぎるのでは? とよくいわれたくらいです。
稲葉:13種類というと、ちょっとしたものですからね。しかも、筆しらべのパワーアップを入れたらもっとある。絶対ユーザーが混乱するから、何度も数を減らすようにいいました。でも、神谷はちっとも譲りませんでしたね(笑)。まあ実際、シナリオのボリュームが予想以上に大きくなったので、結果的にはちょうどよかったんですが。
──エンディングまでのプレイ時間はどのくらいですか?
稲葉:私が最初に通しでプレイをしましたが、かなりかかりましたね。寄り道しないで進めても、50時間を越えるんじゃないでしょうか(笑)。でも、寄り道もまた楽しいし…。
神谷:今まで手がけたゲームは、短いシナリオばかりだったので、さじかげんがわからなかったんですよね。スタッフも今までの感覚でバリバリに作り込んでいるから……。
稲葉:みんな小さいパートをやっていて、作業終盤近くまで全体像を把握している人が1人もいなかったですね(笑)。こんなのって、なかなかないと思うんですけど。でも、物語が破綻していないから、スゴイと思います。
神谷:逆に、わからなかったからできた、という部分もあるでしょうね。同じこともう1度やれといわれてもできません。かんべんしてくれ、って言いますよ(笑)。
稲葉:うん、2度とできないだろうね(笑)。というか、40人程度のスタッフで作るボリュームじゃありませんでした。開発陣のみなさん、本当にお疲れ様でした(笑)!
──それでは、最後にファンのみなさんへメッセージを!
神谷:絶対おもしろいので、ぜひプレイしてください。あと、気に入ったら友達にもすすめてみてくださいね。
稲葉:ボリューム=質とは言い切れませんが、どの部分も満足のいくおもしろさに仕上がっていると思います。じっくり、ゆっくり、アマテラスの冒険を楽しんでください。
──本日はどうもありがとうございました!
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稲葉
敦志 氏
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クローバースタジオ
代表取締役社長
『鉄騎』や『逆転裁判』などの作品で多くのファンを持つ、本作のプロデューサー。プロデューサー業だけでなく、さまざまな業務を一手にこなすなど、最も長く『大神』に関わり続けたメンバーの1人。 |
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神谷
英樹 氏
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クローバースタジオ
ディレクター
本作に並々ならぬ熱意を込めたディレクター。登場キャラのなかでもアクが強いキャラの1人・鬼斬斎の声を担当しているのもこの人! 代表作は『Devil
May Cry』、『ビューティフル ジョー』シリーズなど。 |
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大神(OKAMI)
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■メーカー:カプコン
■対応機種:PS2
■ジャンル:A・AVG
■発売日:2006年4月20日
■価格:7,140円(税込)
■関連サイト:
公式サイト
/ カプコン
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