電撃ドットコム > 電撃オンライン > インタビュー > 『塊魂』

SOFT  

超巨大な王様が酔っ払った勢いで星々を破壊!
尻拭いのために、息子の王子が"塊"を転がしてモノを巻き込んで星を作る…。
世界設定も、ゲームシステムもこれまでにないACT『塊魂』。
その生みの親であるディレクターに直撃インタビューを敢行。
なぜこんなゲームが誕生したのか話を聞いてみてわかった!!

●あの世界観はもとは別のゲームの設定だった!

──:世界設定やモノを巻き込んで大きくするといったゲームシステムなど、どこをとっても今までにない奇抜なゲームですが、誕生の経緯というのは?
高橋慶太氏(以下、敬称略):入社してからが開発技術を向上させる実験プロジェクトというのに参加してたんですよ。で、その後、そろそろ本格的に開発に参加することになった時に、僕自身がおもしろそうと思うプロジェクトがなくて、どこにも入りたくなかったんですよ。それで、僕の上司が比較的自由な人で「どこにも入りたくないなら自分で何か考えて、プロジェクトを立ち上げなよ」っておっしゃってくれて、じゃ、こんなゲームはどうかなって考えたのが『塊魂』でした。
──:既存のゲームにはないタイプのゲームですよね。開発にこぎつけるまで、いろいろ壁があったんじゃないですか?
高橋:そうですね。まず、企画をどう通そうか悩みましたね。やっぱゲームが奇抜だったのでそのまま新規で企画を申請しても通らないだろうと。そこで当時、ゲームクリエイター養成学校との合同でゲームを作る、ってプロジェクトがあって、そのプロジェクトの企画として申請したんですよ。ある程度形になったのを見てもらえば、おもしろさが伝わるだろうとは思っていたので。で、実際に1ステージだけですが、実際にプレイできる形にして遊んでもらったら、かなり評判がよくて、じゃあ、発売しようということに。ちなみにもし『塊魂』をやってなかったら、『ブレイクダウン』を作ってたと思います(笑)。
──:開発にこぎつけるまでに苦労があったわけですね。それでその苦労の要因の1つでもある世界観が、なんといってもやはり気になるんですが…。
高橋:実はあの世界観は、別のゲームのネタとして考えたものなんですよ。『塊魂』の開発の前にレーシングゲームの設定を考えてほしいという仕事がありまして、その時に考えたものなんですよ。
──:レーシングゲームですか???(爆笑)
高橋:厳密には、ドライブ要素のあるアクションゲームになるのかな? そのゲームの設定であの王子と王様を考えついたんです。まぁ、もちろん却下でしたが…(笑)。それで「もったいないなぁ~」ってずっと暖めていて、『塊魂』の開発を始めた時に、このゲームだったら、この設定アリかなってことで、ああいう設定になりました。
──:どこからあんな設定が考えつくんですか?
高橋:悪者がいて、それを倒して世界を救う的な、ありきたりな世界観がつまんないなぁって常々思ってまして、もっと笑えるような世界観のゲームがあってもいいんじゃないかなって考えていたら、こうなりました(笑)。何かきっかけがあったりして思いついたわけじゃないので、どこからと言われると困りますね。笑えるものをって考えたら、フッと出てきました。
──:フッとですか…。いつもこういった世界観を頭の中に描かれているというか、こういう世界の中で生きてらっしゃるんですか…
高橋:いえいえ、生きてはいないです(笑)。えっ、そんなに変ですかねぇ。
──:普通は考えつかないと思いますけど…。
高橋:僕から見ると、ファンタジーなRPGの方がおかしな世界観だと思うんですけどね。死んだ人が簡単に生き返ったりしますし。今までになかったものを作るってのが念頭にありまして、それを基本に考えていたら、ああなっただけで…。まぁ強いていえば、僕はお笑いが好きなんで、その辺りの感性がああいう世界観を考えさせてるのかもしれませんね。
──:ゲームのことよりも、高橋さんという人間のことが気になってきました。高橋さんについて、いろいろ質問させてもらっていいですか。普段はどんなゲームで遊ばれているんですか?
高橋:最近、あんまりゲームはしませんね。
──:ゲーム自体は遊ばれたことはあるんですよね。
高橋:あります。ばりばりファミコン世代なんで。小学校のころは『ドラクエ』とか『FF』とか、馬鹿みたいにレベル上げしたりしてましたね。でも、中学生ぐらいから少しずつやらなくなって、大学は美術系の大学に進んだんですが、その当時は全然触れてませんでしたね。プレイステーションを買ったのは、ナムコに入社してからですからね(笑)。
──:ナムコには、デザイナーとして?
高橋:そうですね。入社当時は、コンピュータに関する知識ゼロでしたよ。大学では彫刻をずっとやってたもんで。
──:彫刻??? なぜ彫刻の道からゲームデザイナーの道を選んだんですか?
高橋:彫刻って別に必要ないんですよね、この世の中に(笑)。風景画とかは特に知識がない人が見てもキレイだなぁって感じたり、少なからず世の中のためになっていると思うんですけど、彫刻ってわかりづらくて、アートだって言っても見る人によってはただのゴミにしか見えないし。ホント彫刻って、全然世の中の役に立たないなぁって。でも、立体を作るのは楽しい。それで何か彫刻の知識を生かせて、世の中のためになる仕事はないかなって考えていた時に『鉄拳』を見て、これぐらいのモデリングならできそうかなって(笑)。しかも、ゲーム会社って、人を楽しませることを仕事にしている数少ない職業で世の中のために少なからずなってる。あとは、これまでずっとやっていた立体物制作という経験を、映像っていう体験したことのない分野で試してみたかったというのもあって。で、知っているゲーム会社を受けようということで、一番早くに試験のあったナムコを受けたら受かって、現在に至ると(笑)。
──:彫刻家だったというお話を聞いて、なんとなくわかりました。芸術家肌なんですね。あの世界観がフッと思いついたというのも納得です!
高橋:でも、あの世界観って、ベタベタじゃないですか。今考えると恥ずかしいんですけど…。
──:それを大きいな声で言っちゃっているところがスゴイですよ。ただ、これはイキすぎかなって不安はありませんでした?
高橋:最近、ある人に「もっと大衆向けに、とっつきやすい設定にすればよかったんじゃないかな」って言われたりもしたんですが…。最初から抑え目にして受け入れられちゃったら、それ以上のモノって出せないじゃないですか。なので、最初にこれだけアクの強いものを出して、受け入れられればラッキー、ダメだったら、次は少し抑え目でいけばいいかなぁと考えてまして。なので、不安は特にありませんでしたね。
──:そういったわけで、あんなインパクト抜群の王様とかが登場しちゃうわけですね。王様のデザインは高橋さんが?
高橋:僕が描きました。顔は映「QUEEN」のフレディ・マーキュリー氏、体はバレーダンサーの熊川哲也氏をイメージしています。でも、王様を最初に人に見せた時、アメリカのTVドラマ「ツインピークス」の最後に出てきたヤツに似てるって言われましたね。見たことないんで、知らないんですが…。
──:あと、ずっと気になってたんですが、王様の頭は横に長いですけど、何かかぶってるんですか?
高橋:生まれつきです。体の一部です(笑)。王子も大きくなってくると、伸びてきますよ。というか、実は細かい設定はゲームの開発が終わった後にみんなで考えようって話になってたんですけど、まだ決めてません。なので、あまり深く追及しないで下さい…。
──:わかりました。そういえば、『塊魂』というタイトル。ゲーム内容を端的に現していて、わかりやすく、インパクトもあって、かなり良いタイトルだと思うんですが、どんなところから出てきたんですか?
高橋:思いつきです。いきなり最初からこれです。開発当初からタイトルは変わってません。


●ゲームにしかできないことを追求して生まれたシステム
──:話が少し戻ってしまいますが、何でもモノを巻き込む塊を転がして、モノを巻き込んで塊をどんどん大きくする!というシステムを思いついたきっかけは? 雪だるまを作る感覚に似てるので、やはりそこからですか。
高橋:いえ、雪だるまからじゃないですね。これも世界観と同じで、降って湧いてきました。ゲームにしかできないこと、他のゲームがやってないことっていうのをずっと考えてたら、そこからフッと出てきました。なので、きっかけというのはないですね。
──:あのゲームシステムもフッと考えついたんですか。スゴイですね。それで、フッと思いついたものを実際に形にしてみようということになりますが、形になるまで、いろいろ苦労はありました?
高橋:苦労したところはいっぱいありましたね。まず操作方法ですかね。僕はリアリティを出したかったので、実際にボールを転がす感覚を忠実に再現したかったんですよ。それでゲームの中では全然説明していないんですが、実は2本のスティック=王子の腕(左スティックが王子の左腕/右スティックが王子の右腕)っていうことになってまして、最初は左スティックを前に倒すと、右に塊が転がるっていう形だったんですよ。でも、周りから感覚的にわかりづらいって意見が出まして。両手で転がすっていうコンセプトからはかけ離れちゃったんですけど、やっぱりわかりやすさを重視しようということで、今の形になりました。それとマップ作りも苦労しましたね。プレイヤーがどんどん大きくなるっていうゲームが今までになかったので、どうデザインすればいいのか相当悩みましたね。あとはですね…もう全部大変でしたね(笑)。
──:そうですよね。今までにないゲームですからね。実際作業を進めてみたら、壁にぶつかった、なんてこともあったでしょうね。
高橋:細かいところでたくさんありましたね。プログラム的なところでもありましたし。そう最近のゲームだと、モノの影に入ると半透明になって透けて、プレイヤーが見えたりしますよね。でも、『塊魂』は半透明にならないんですよ。
──:確かにモノの影に入ると、「塊」って表示されますよね。
高橋:なんでいまどき半透明にならないのってツッコまれたんですが、プログラム的に半透明の処理ができないんですよ。この辺りは実際に形にして、出てきた問題で、どう対処しようか悩みましたね。
──:あれはあれで味があっていいと思いますよ。わざとそうしてると思ってました。
高橋:あとカメラが酔うとかの問題もあったんですけど、とにかく時間がなくて…。その辺りきちんとケアできてない部分もあったりして、後悔してたりもします。
──:いろいろ苦労があって、今の形になっているわけですね。話は変わりますが、モノあっての『塊魂』ですが、こんなモノを入れようといった、モノのピックアップというのはどなたが?
高橋:デザイナーを中心に開発スタッフで話し合って決めました。最初は800個ぐらいを考えてたんですが、作業を始めてみると、こういったモノも欲しいとか、あれを入れようとか、どんどん増えていって、最終的には1450個近くまで膨れ上がりました。
──:では、最初にいくつか考えて削っていったのではなく、最初に考えたモノにプラスをしていって、今の数に。
高橋:そうですね。最初から1000を超そうという目標はなかったですね。
──:お茶碗に魔女っ子風のキャラが描かれていたり、モノのデザインが秀逸ですよね。それも高橋さんが1つ1つアイディアを?
高橋:さすがにそこまでしていると終わんなかったので、そこはデザイナーのトップの方にコントロールしてもらっていました。とはいえ、最初にドット絵がキレイに見えるデザインとか、コンセプトを決めてましたので、どれも満足いくモノにはなってますね。ちなみにテレビとかラジオとか、昭和のテイストが入っているのは、デザイナーのトップの方の趣味だったりします。
──:お気に入りのモノはあります?
高橋:人間が好きですね。人間はすべて僕と企画から一緒に動いていた相方と、こういうのが欲しいって考えたので、かなり思い入れはありますね。人間、よくないです?
──:人間はいいですよね。ただ女の子、男の子、若者、老人といった違いだけでなく、パンダの乗り物に乗ってたり、スイカ割してたり…。個人的には、5人ぐらいの人間が肩車で縦につながってるのがお気に入りですね。
高橋:自分でいうのもなんですが…。あれ、新しいですよね(笑)。
──:人間と言えば、校庭で朝礼しているシチュエーションがほのぼのしていて好きなんですが、モノの配置などで苦労されたところはありますか?
高橋:僕、あざといのが嫌いで。ひょっとこが回転してたり、こけしがもぐら叩きみたいに地面から出てたりするのがダメで、配置に関してその辺りはやり過ぎだって思ったんですけどね。でも、こういう仕掛けがあった方が、ユーザーも飽きないし、楽しんでもらえるんじゃないって意見もあって。いろいろその辺りの調整で苦労しましたね。逆にプレイされて、モノの配置どうでした?
──:側溝に1カ所だけフタがなくて、そこから下に落ちるとモノが並んでいたり、細い通路を登っていくと車の上に出られて、そこから軒先に干してあるパンツに体当たりしてパンツを巻き込めたり…。無理に巻き込まなくてもいいけど、こんな所でこんなモノがこっそり置かれていて巻き込める。そういった隠し要素的な部分はおもしろかったですね。こんなの誰が気づくんだろうみたいなって、一人ニヤニヤしながらプレイしてたりしましたよ。
高橋:なるほど~。そういってもらえるとうれしいです。ありがとうございます!


●『塊魂』の世界観をより輝かせるもろもろの要素
──:ステージ内で流れる曲の一部は、ゲームの音楽にしては珍しく、ヴォーカル入りですよね。なぜヴォーカルを入れようと。
高橋:これはサウンドを担当していたスタッフのアイディアですね。企画の段階から一緒に参加していた人だったので、ゲームの方向性とか理解してくれて、『塊魂』にしかできない曲、おもしろい曲にしようってことで、ヴォーカル入りに。
──:歌手の方がかなりゲームに合ってるなって感じたのですが、選定はどうやって?
高橋:『塊魂』の世界観と歌の歌詞の内容を考慮して選ばせて頂きました。歌手の方々も世界を理解して頂き、熱く歌い上げて頂けたので、僕個人としてもかなり満足していますね。でも、歌が合ってると思いました? 最初に曲にのせて、ゲームをプレイした時、びっくりしましたね。全然ゲームに合ってないって(笑)。普通のゲームって、危険になるとそれらしいBGMになったりするじゃないですか。なのに、まったくゲームの状況と曲がリンクしてなくて。すごく新鮮に感じましたね。
──:そう言われるとそうですね。ゲーム内の状況とBGMが同期してない。でも、ゲームが「誰かを助けなきゃいけない」みたいな切迫した設定のゲームでなく、比較的のんびりとした設定のゲームなので、BGMのマイペースっぷりはしっくりきてますよね。
高橋:どの曲が好きですか?
――:やっぱり、オープニングの曲の"塊オンザロック(←ここでほんのり視聴が可能)"ですかね。あとは、松崎しげるさんが歌うエンディングの曲ですね。あの松崎さんに「日に焼けた肌」って歌わせているところにある意味感動しました。
高橋:歌詞はサウンドの人にお任せだったんですが、あの歌詞を最初読んだ時、嫉妬しましたもんね。ホントすごくいいですよね。エンディングは最初から泣かせようってコンセプトがあって…。
──:具体的な内容については話せませんけど、エンディングはハートにかなりグッときますよね。…違ってたら、ごめんなさい。あれって、もしかして世界平和を訴えてます?
高橋:!!!!! スゴイですね。気付きましたか。ズバリそうですよ!! 伝わりましたね。エンディングのテーマは世界平和なんですよ。ぜひ、エンディングは皆さんに見てもらって、感動して欲しいですよ。ちなみに宣伝になりますが、サウンドトラック「塊フォルテッシモ魂」が5月19日に発売されるので、そちらもヨロシクお願いします。
──:話は変わりますが、素敵コレクションで見られるモノの説明文は笑っちゃったんですけど…。
高橋:あれは相方の担当したところですね。最初にあざとくならないようって話をして、あとはお任せでした。あのテキストは王様が説明しているって設定になってます。王様は地球のことをあんまり詳しく知らないので、結構アバウトな感じになってます。
──:あとテキストつながりで、星を完成させると名前がつきますが、あれはどなたが?
高橋:あれは僕と相方で考えました。数は全部で素敵コレクションのジャンル×5個ずつ(80ジャンル×5=400!)ぐらいあります。星の名前は巻き込んだモノの中でどのジャンルのモノが一番多かったかで決まるので、プログラム上にはきちんと設定してあるんですが、理論上絶対に出ない名前もあったりします。
──:最後になりますが、『塊魂』の開発も終わり、次にこんなゲームを作りたいというのはありますか?
高橋:具体的なアイディアはさすがにまだありませんね。ただ、やっぱりいくらゲームがリアルになっても実体験にはかなわない。『塊魂』で塊を転がしているよりも、運動会で大玉転がしをしてた方が絶対に楽しいと思うんですよ。でも、実体験では実現できない、ゲームでしか表現できないこともあって、そういった面ではゲームって、とってもミラクルなメディアだと思うんですよ。なので、この先はそこを突き詰めていければなぁと考えてます。
──:次の作品も期待しています!! 今日はありがとうございました。


高橋 慶太 氏
高橋慶太氏
 1999年にデザイナーとしてナムコに入社。数々の実験プロジェクトに参加後、2001年春に『塊魂』の企画を立案、開発に着手する。発売されたゲームとしては『塊魂』が初めての作品。好きなものは"動物"で、本人曰く、普段は仙人のような生活を送っているとのこと。ちなみに『もじぴったん』の生みの親である後藤祐之さんとは同期(インタビューはこちら)。

塊魂
画面写真
■メーカー:ナムコ
■対応機種:PS2
■発売日:2004年3月18日
■価格:4,725円
■関連サイト:塊魂オンザウェブ


(C)2003 NAMCO LTD.,ALL RIGHTS RESERVED
サウンドトラック
「塊フォルテッシモ魂」
■メーカー:コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社
■発売日:2004年5月19日
■価格:2,940円