業界の第一線で働く人の生の声を聞ける「クリエイターインタビュー」。今回は、『ロロナのアトリエ』でキャラクターデザインを手掛ける岸田メル氏がゲストだ。イラストレーターとしての仕事の秘訣や活動の流れなどに迫る!

デビュー前はお絵かき掲示板に毎日投稿していました

絵で娯楽を提供したい
――まず、ご自身がイラストレーターを目指したきっかけを教えてください。
岸田メル氏(以下、敬称略):いろいろあったと思いますが、一番はゲームやアニメにかかわる仕事をしたかったからです。ゲームもアニメも子どもの頃から好きだったので、今回ガストさんからキャラクターデザインのお仕事をいただいたことが本当に嬉しいです。
――『ロロナのアトリエ』の仕事をするうえで、苦労した点などはありますか?
岸田:ゲーム中のバストアップの絵は、量が多いうえに似た作業が続くので苦労しました。また、一度描き上げた絵でもあとから気になる部分が見つかるとどうしても放っておけず、細かく修正していてキリがなかったです。キャラクターデザインでは、ロロナの帽子がなかなか決まらなくてたいへんだったのを覚えています。自分のなかで、「これだ!」と思った帽子をディレクターの岡村さんに見せると、「なんか農家のおばさんみたい」と言われてボツになり、枕を涙で濡らしました(笑)。
――仕事で気をつけているポイントは?
岸田:多すぎて何を言えばいいのかわかりません。ただ、『ロロナのアトリエ』に関していえば、従来のシリーズの雰囲気を壊さずに、なおかつこれまでにないものを出せるよう気を使いました。
――イラストレーターとして、ご自身が一番大事にしていることはなんですか?
岸田:自己本位になってしまいますが、とにかく仕事のたびに自分が満足できるクオリティを出せるよう努力することです。ほかにも、プロとして大事にしなくてはならないものがいろいろとありますし、そのすべてを自分が守れているかといえば、全然そうではなくて恥ずかしいのですが。あと、私自身は娯楽を提供する立場でありたいと思っています。絵を描くときは常に、見てくださる方が楽しんでくれることを願って描いています。

↑かわいい女の子やたくましい男性など、幅広い作風が岸田氏の魅力。

アナログとデジタルの差
――今回、ゲームの仕事ということでとくに気をつけたポイントはありますか?

岸田:3Dモデルが作られることを考えて、キャラクターの背中側やマントの下の見えない部分などのデザインに気を使いました。また、同じキャラクターを何度も描くことになるので、複雑すぎる模様は極力避けようと。でも、気がつくと結局細部まで作りこんでいたり(笑)。
――仕事をするときの環境や具体的な流れなどを教えていただけますか?
岸田:私の場合は、ペンタブレットを使用して全行程をデジタルで描いています。ほかの仕事では線画を紙に描くこともありますが、『ロロナのアトリエ』のときはすべてパソコン上での作業です。具体的な機器は、OSがWindowsで、ペイントツールは主にSAIを使っています。仕事の流れとしては、まずSAIでラフを引いて次に線画を描きます。それに彩色を施したらPhotoshopで調整する、というのが主な手順になります。
――イラストにおけるアナログの良さとデジタルの良さはなんだと思いますか?

岸田:デジタルの利点は、素早く色を塗れることと、やり直しがいくらでも可能なことです。ただし、デジタルのイラストはドットの集合体なので、物理的な情報量では紙やキャンバスに描かれたアナログの絵にかないません。それが、そのままアナログの利点ですね。デジタルで絵に深みを持たせる場合、テクスチャーのようなある程度アナログ的なものをシミュレートして、ランダム性を出さないといけません。でも、アナログではすべてがリアルタイムで微妙に違った結果になるので、ある種ラクな部分もあります。
――今回晴れてゲームデビューとなりましたが、今後の目標はなんでしょう?
岸田:とりあえず、現在作業中の『ロロナのアトリエ』特典用テレカを無事描き終えることが第一です(笑)。

リフレッシュが大事

――デビュー前、イラストのスキルを上げるためにやったことはなんですか?
岸田:当時はインターネットで流行っていたお絵かき掲示板に、ほぼ毎日投稿していました。そのおかげでかなり技術が磨かれたと思いますし、逆にお絵かき掲示板がなければイラストレーターになっていなかったと思います。今は、pixiv(ネット上のイラストコミュニケーションサービス)がみんなにとってそういう場になりつつありますよね。
――影響を受けた作品はありますか?
岸田:小林智美さん(※1)やCLAMPさん(※2)、いのまたむつみさん(※3)の絵が大好きで、自分の作品にいろいろ影響を受けたと思っています。周囲にそのことを話しても、何やらあまり実感してもらえないみたいなのですが。
――ちなみに、ゲームで好きなタイトルは?
岸田:『サガ』シリーズは絵も音楽も内容も大好きです。ほかにあげるとすれば、『ROOMMANIA# 203』や『ニュールーマニア ポロリ青春』です。知らない方はぜひプレイしてください。『アトリエ』シリーズに関していうと、『エリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士2~』をけっこうやりこみました。エンデルクさんが好きです。でも、それこそ子どもの頃ですので、現在こうやって『アトリエ』シリーズにかかわるインタビューに答えているのが不思議な感じです。
――普段の生活で気をつけていることや、仕事のインスピレーションをどういったものから得るか教えてください。
岸田:仕事場でひたすら悶々と絵を描く仕事なので、とにかく息が詰まらないよう意識的にリフレッシュを心掛けています。と言いつつも、最近気分転換できていないので、仕事に影響しない範囲でゲームをしたいですね。PSPを購入して、ゲームアーカイブスで昔やったゲームとかやりたいです!  インスピレーションについては、自分の生活におけるすべてから得られるものだと思っています。最近ですと、好きなファッション誌や映画から刺激をもらうことが多いですよ。
――クリエイターやイラストレーターを目指す人に、アドバイスをお願いします。
岸田:いろいろな人の目に触れて、たくさんの意見を取り入れていくことが重要だと思います。自分の持つ感性ももちろん大切なのですが、自分1人だけでできることってあんまり多くはないですから。

※1イラストレーター。代表作は『ロマンシング サ・ガ』シリーズや『サガ フロンティア』シリーズなどのキャラクターデザイン。
※2:漫画家。代表作は『XXXHOLiC』や『カードキャプターさくら』など
※3:イラストレーター:代表作は『テイルズ オブ』シリーズなどのキャラクターデザイン。
開発者の岡村佳人氏にもお話をうかがった!

 本作のディレクターである岡村氏が、今回岸田氏を採用した理由や業界を目指す人へのアドバイスを語ってくれた。
――岸田メルさんを起用した理由は?
岡村佳人氏(以下、敬称略):今回は原点回帰をテーマにしつつも、ビジュアル面では現代風のきれいなデザインを取り入れたいと思っていました。岸田さんはその条件にピッタリで、しかもかわいい女の子や美形の騎士に渋い紳士など、描けるキャラの幅が広かったのが決め手ですね。岸田さんの起用は、ある意味今回のタイトルで一番成功した部分だと個人的に思っています。
――キャラクターデザインなどのイラストレーターを選ぶポイントは?
岡村:その人の描く絵がタイトルのイメージに適しているかどうかや、他作品の影響を受けすぎていないかなどですね。細かいポイントはたくさんありますが、第一印象でインパクトを受けるかどうかで選ぶことが多いです。
――仕事で依頼するイラストレーターはどのように探しているのですか?
岡村:主な方法は、イラスト系のSNSをめぐったり、個人のホームページからリンクをたどったりですね。
――クリエイターを目指す人たちに向けて何かアドバイスをお願いします。
岡村:もしも、この業界の仕事をするチャンスに恵まれたら、それがどんな仕事であったとしても必死で頑張って結果を残してください。この業界は、実際に現場に入ってなにかしらの形を残すことが第一です。あとは、あきらめない心も大切です。アルバイトからディレクターになった私のような例もあるので、本気でゲームの仕事をしたいと思う人は挑戦し続けてください。

 岸田氏がかかわる『ロロナのアトリエ』を紹介。多くのファンに支持される人気シリーズの最新作情報をおさえよう。

↑アトリエで幻想的なアイテム合成が楽しめる。

 「アイテム合成がすべてを左右するRPG」という設定で人気を博した『アトリエ』シリーズ。本作はその最新作で、シリーズの魅力の原点である、キャラや世界観の追求をテーマに作られたゲームだ。

↑ロロナは営業停止寸前のアトリエを存続させるため、王国や街の住人からの依頼をこなすことに。

 見習い錬金術士のロロナを主人公に、幼なじみの女の子や王国の騎士など魅力あふれるキャラクターが多数登場する!

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