

ゲーム開発の仕事は徹夜などもあり、キツイもの。そんな状況の中で、楽しく仕事するためには息抜きがとても大切だと語る長井伸樹さん。趣味がメインで、仕事はサブ? そんな長井さんの仕事っぷりから業界の荒波を越えていく極意を学ぼう。電撃PSPにて、好評連載中の長井さんのコラム「ちょっとヘル2007」と合わせて読めば、開発秘話の楽しさ倍増必至!
――では、さっそく子供の頃からのお話をお聞きできればと。
幼稚園、小学校の頃はどんなお子さんでしたか?
長井伸樹(以下長井、敬称略):だいぶ記憶が薄れてて……(笑)。幼稚園の時とかは全然普通でしたが、ずいぶんイタズラっ子で。キリスト教系の幼稚園で、わりとおとなしいやさしい先生ばっかりだったんですが、そんな中で一番のイタズラっ子で。なんかでっかい積み木をボンボン投げて、当時はやさしくないので、それも木のヤツですよ。それをボンボン投げたり、屋根に登っちゃったり、教会の行っちゃいけないところまで上がっていったり、そんなことばっかりして。当時、バビル2世(※1)ごっこなんかもやってて、友だちをぐいぐいひっぱっていく感じで。ガキ大将とまではいかないんですが、周りをひっぱっていくタイプでしたね。
――小学校に入ってからも変わらない感じで?
長井:小学校に入ってからも変わらなくて。ただ体格がよくて、力が強かったわけではないので、口八丁手八丁で、バーとしゃべくり倒して、友だちの輪の中心で楽しく過ごしてましたね。小学校の頃は特に変わったことはなかったんですが、ただものすごく歴史が好きで、なんか知らないんですけど、小さい頃の写真とかを見ると、小学校1年生ぐらいの頃から歴史の図鑑みたいなヤツを片手に抱えてて。ずっと持ってたらしいんですよ。未だに小説なんかでも歴史モノが好きなんですが、ずっと歴史の本を持っている子供だったみたいですよ。
――歴史好きになるきっかけっていうのは何だったんですか?
長井:うちの叔父が歴史好きで。歴史手帳(※2)っていうのが毎年地味に出てまして、何年に歴史的な出来事がありましたとか書いてある手帳なんですが、それを叔父がよくわかんないだろうに、ボクに幼稚園の頃から毎年くれてたんですよ。お年玉なのか何かわかりませんけど。それを見てから、歴史っておもしろいと。だから、叔父の影響は大きいですね。で、うちの父親も歴史好きだったんで、「これだったら、勉強だからいいや」って、歴史の図鑑を与えられて。子どもの頃って、何のことかよくわらかなくても、友だちが知らないことを知ってるとかっこいいじゃないですか。だから、父親が5歳の時から単身赴任で遠いところに行ってしまっていたんですが、毎週父親のところへ通ってまして。その行き帰りとかによく読んでましたね。ずばり歴史っ子でしたね(笑)。
――図鑑というのは、どんな内容で?
長井:小学館の日本の歴史みたいな本で、これ1冊で日本の歴史がわかるみたいな本でしたね。で、そのあとに学研のマンガのシリーズも買ってもらって、そういうのを読んだりして。発明発見の歴史とか、もちろん戦国時代というのもあるし、いろいろな歴史モノの本を読んでましたね、小学校の低学年の頃は。
――小学校低学年は歴史っ子だったわけですね。高学年はどうでした?
長井:塾に行かされて、結構「勉強しろ」みたいな感じだったんですけど、塾で友だちができて。小学校4年の頃ぐらいだったかな? ボードのシミュレーションゲーム(※3)が日本に入ってきたんですよ。で、その時に歯医者の息子だった子がいて、金持ってるじゃないですか。そういうのをみつけて、持ってくるわけですよ。それで「こりゃ、おもしろいじゃん」ってことになって、中学校ぐらいまではボードゲームで遊ぶことが趣味になっていましたね。
――時代的にはテレビゲームではなく、ボードゲームですよね。
長井:そうですね。テレビゲームはまだ全然で。それよりも先にパソコンですよね。小学校6年ぐらいの時に、FM-7(※4)を買ってもらって。でも、それも歯医者の息子が当然先に持ってたんですよね。歯医者の息子が常に遊びの最先端を行っていて、それを追う形で(笑)。
――医者の息子の物を見て、「欲しい欲しい」と(笑)。
長井:強引に両親を口説き落として、パソコンを買ってもらって。だから、その頃はPCゲームと、ボードゲームをしばらくはやってましたね。ファミコンとか、コンシューマのゲーム機を買うのは遅かったですよ。
――PCのゲームは、どんなゲームで遊んでたんですか?
長井:その当時はまだテープで「ビービーガーガー」の時代(※5)で。最初の頃によく遊んでいたのは、それもまぁシミュレーションモノで、木屋通商(※6)というところが輸入していた向こうのゲームがあったんですよ。表示は全部アスキーの文字でしかないような。その手の『ミッドウェイ』とか、『B1 核爆撃機』とかをやってましたね。この『B1 核爆撃機』ってゲームがすごく渋くて……。
――全然知りませんね、そのゲーム……。
長井:わかりませんよね。簡単に説明すると、テキストの爆撃ゲームなんですよ。そこから意味わかんないと思いますが(笑)。B1という爆撃機で、「どこどこを爆撃せよ」って命令がくるので、方向とか距離をセットして自動航行ってすると、勝手に飛び立つんですよ。それで30分ぐらい経つと、「目的地に着きました」と。そして次にテキストで「ミサイルが飛んできました。どうしますか?」と出るので、そこで「緊急回避する」か、「チャフを吐く」かみたいなコマンドを選んで、最終的に爆弾を落とせば終了なんですが……(笑)。すごいゲームで、自動航行ってすれば、普通のゲームなら、間に時間を持たせるとしても、気持ちを高ぶらせるための演出だったりするのに、どうなってるのか、途中で落ちたりするんですよ、爆撃機が(笑)。ユーザーの一切手の触れられないところで終わる。なにそれって! あと履歴書にも好きなゲームとして書きましたが、『西部の成りあがり』っていう、ホット・ビィのGA夢(※7)というブランドのゲーム。
――すいません。勉強不足で知りません……。
長井:ボクの中の名作で、これも渋いゲームで。西部の町にあなたはいます。西部の町で成りあがってくださいっていうゲームなんですよ。1歩歩くごとに15分時間が経過するような、半リアルタイムのようなゲームで、マップは見下ろし型。そこに酒屋があったり、花屋があったり、大金持ちの家があったり、農場があったりして、そこをトコトコ歩きながら、いろいろなミッションを受けて成りあがっていくんです。それで最初は一銭も持ってないんですよ。でも、毎晩宿屋に泊まらないと、ならず者に襲われて死ぬっていう設定なので、必ず宿代は稼がないといけない。金を稼ぐ手段っていうのはいくつかあるんですけど、その1つに農場で働くってのがあって。町の外れにある農場までゲーム内時間で何時間もかけて行って、そこでやるのがリターンキーとスペースキーを250回押すと、2ドルもらえるといった渋いバイト(笑)。しかも、それをやって宿屋に戻ると、ほぼ1日経ってしまうので、ほとんどゲームが進まない(笑)。そんな超地味なゲームで、そういうのが好きだったんですよね。で、一気に話は飛びますが、それがのちのち『バイトヘル2000』(※8)のボールペン工場(※9)につながると。「あぁ、ボクわかりますよ、瀧さん、この楽しさ。楽しいですよ」と言えたのは、『西部の成りあがり』のおかげですね(笑)。これはホント渋いゲームですよ、マゾゲーマーにはぴったり(笑)。
――昔のゲームって、厳しいゲームが多かったですよね。
「ミステリーハウス」(※10)とか、コマンド選択式じゃなくて、コマンド入力式だったり……。
長井:しかも、当時は英語の単語だったりするんですよね。あの当時は理不尽に難しいゲームがありましたよね。画面中のドットを1個1個クリックしていかないとわからないような謎とか。なにそれっ!? みたいな(笑)。砂漠のココにあるんですよとか。だから、あの当時に鍛えられていた人は、ゲームの中で何かを探すのは得意ですね。
――確かにそうですよね。
話が戻りますが、ボードゲームというのはどんな感じのモノを?
長井:ここに持ってきたんですが……。あっ、PCのゲームなんかもこんなのをやってましたね。これ、裏見てください。光栄(※11)って書いてありますよ。シブサワコウさんがずっと前に作られたゲームを、ボクが遊んでいるというこの流れ。歴史を感じますよね。
――社名が光栄マイコンシステムって書いてありますよ。
長井:パソコンじゃないですよ、マイコン(※12)時代ですからね。
――で、ボードゲームのお話ですが……。
長井:まずはこんな雑誌(※13)がホビージャパンから出てまして。これが800円するんですよ。当時、高くて買えないんですよ。この頃はたぶん2カ月に1回のペースで出てたと思うんですけど、「この号はオレが、次の号はキミが」って感じで、持ち回りで買うようにしてましたね。
――細かいですね。頭が痛くなってきますね。
長井:これを小学生時代に読んでいたわけですよ。わかんないところも正直ありましたが、「なんだぁ、こんなゲームがあるんだ」って、いろいろこれを読んで夢を馳せてましたね。
――昭和57年ですか。ほとんどの人が知らない時代ですよね。
長井:そうでしょうね。ボクが大学生の時にはテーブルトークRPG(※14)の時代になってましたから、期間としては短いですよね。で、これが一番ハマッたボードゲームで、『GUN SLINGER』(※15)。これはホントに好きで、ダメになっちゃってもいいように、3セットぐらい持ってるんですよ。一番ハマってた時は、小学校6年から中学校2年ぐらいまでなんですが、毎週歯医者の息子の家に集まって遊んでましたね。きちんとやるとすごく時間がかかるので、「ここをあぁしよう」とか、スピーディに遊びやすくするために、ハウスルールを作ったりしてましたよ。あとこれも名作だと思うんですけど、『超人ロック』(※16)も相当やりました。追加ルールなんかもあって、好きだっていう人も多いですよ。でも、こういうボードゲームをみんなで集まって遊ぶってのは暗い青春ですよね(笑)。ただ、こういう仲間たちがいたからこそ、ボードゲームやPCゲームをやるゲームっ子になったわけで、感謝はしてますね。
――その頃からゲームを作るお仕事に就こうという気持ちはありました?
長井:全然ないです。一切ないです。その頃はただ遊びたいだけだったので。当時は歴史学者になるって言ってましたね(笑)。当時からずっとそうなんですけど、あんまり働きたくないってことばっかり言ってて、ダメな人間なんですよね(笑)。
【編集部注釈】
※1 バビル2世……故・横山光輝氏のマンガ。超能力を持つ少年・浩一が、バビル1世が残した遺産・バビルの塔を守るべく、3つのしもべ(ロデム・ロプロス・ポセイドン)とともに、世界征服を企む悪の超能力者・ヨミと戦うという物語。アニメにもなっている。
※2 歴史手帳……吉川弘文館から毎年発売されている本。歴史の年表以外に、各都道府県の史跡一覧などの情報も掲載されている、歴史好きにはたまらない1冊。
※3 ボードのシミュレーションゲーム……ボード上で実際にコマを操り、遊ぶゲームのこと。ヘックスタイプのシミュレーションゲームを想像してもらえればわかりやすいかと。
※4 FM-7……1982年に富士通が開発した、8ビットパソコン。シャープのX1、NECのPC-8801と並んで8ビット御三家と呼ばれていた。
※5 テープで「ビービーガーガー」の時代……現在はメディアと言えば、DVD-ROMなどだが、20年近く前まではカセットテープが利用されていた。ピーピーガーガーは、データをローディングする際にテープレコーダーから聞こえる音。データ量に比例して、ローディングに時間がかかる(ものによれば1時間近くかかる場合も)うえに、読み込みのミスも多かった。ちなみにMSX版の『メタルギア』では、プレイデータをカセットテープに保存していた。
※6 木屋通商……PCゲームの黎明期に数多くのシミュレーションゲームを開発していた会社。販売権を譲り受け、海外の作品の国内での発売も行っていた。
※7 ホット・ビィのGA夢……1980年代初期からゲームソフトの開発・販売を行っていた会社。GA夢は“がむ”と読み、ブランド名。途中社名と同じ、HOT・Bとブランド名を変更、1993年に倒産している。『星をみるひと』(ファミコン)や『鋼鉄帝国』(メガドライブ)などの作品を残している。
※8 バイトヘル2000……2005年12月にSCEからPSP用ソフトとして発売されたミニゲーム集。ゲームディレクターはピエール瀧氏が担当しており、ひよこのオス・メスを仕分ける、心霊写真を鑑定する、シューベルトの魔王をゲーム化した縦スクロールアクションなど、全40種類あるミニゲームはどれも変なものばかり。ちなみにアートディレクションは「スーパーミルクちゃん」などでおなじみの田中秀幸氏。
※9 ボールペン工場……『バイトヘル2000』のミニゲームの1つ。流れてくるボールペンに延々とキャップをはめ続ける、マゾ系ミニゲームの真骨頂。

(C)2005 Sony Computer Entertainment Inc.
※10 ミステリーハウス……1982年にマイクロキャビンが発売した、国内初のグラフィックのあるアドベンチャーゲーム。古びた屋敷を探索し、隠された財宝を探し出すことが目的。
※11 光栄……現コーエーの旧社名。ちなみに「光り栄える会社に」という願いを込めて、社名は名づけられたとのこと。社名は光栄マイコンシステム(設立当初〜1984年)→光栄(1984年〜2000年)→コーエーと変わっている。

※12 マイコン……マイクロコンピューターの略。
※13 こんな雑誌……ホビージャパンから発売された、タクテクスのこと。
※14 テーブルトークRPG……対話式のゲームで、実際にコマやサイコロなどを使って遊ぶ。テレビゲームのRPG同様、架空の世界を舞台に各プレイヤーになりきりプレイするのだが、ゲームを管理するGM(ゲームマスター)と対話。プレイヤーが考えたキャラクターの行動が実現したか否かをGMが判定するため、ゲームの展開の自由度が高い(例:テレビゲームでは氷の壁を物語の流れ上、炎の魔法では溶かせないが、テーブルトークRPGではGMが可能と判断すれば氷の壁を炎の魔法で溶かすことができる)。あらかじめパッケージングされたタイトルを遊ぶ以外、自分たちでシナリオや設定などを考えて遊ぶのもテーブルトークRPGの魅力の1つと言える。
※15 GUN SLINGER……ガンスリンガーと読む。西部劇を舞台にガンマンたちが撃ち合いをするゲームで、行動の書かれたカードを各プレイヤーが出して、それを処理し対戦していく。1ターンにカードに書かれた行動に必要なタイムの合計が5以下なら、歩く→撃つ→歩くといった複数の行動も可能。某ネットオークションなら、完品で15,000円ぐらいの値がつくとか。

※16 超人ロック……聖悠紀氏のSFマンガのこと。ここではそのマンガをテーマにした、エポック社のボードゲームを指している。