

本好きなご両親の影響で、幼い頃から本に囲まれて生活してきたと語る実弥島巧さん。作家にはなるべくしてなったというその人生の裏側には、人と運を呼び寄せる類まれなポジティブさがあった! 今回は人生行路初のフリーランスでお仕事をするクリエイター。会社に勤めるのではなく、自分で仕事を取ってきて働くということについても知ろう。
――作家という仕事は誰にでもなれる仕事だと思いますか?
実弥島巧(以下実弥島、敬称略):誰でもなれる仕事だと思います。クオリティをのぞけば、お話を作る作業は誰でもできるので。ただし、こういう仕事に求められるのは続けられるかどうか。いろんな人もおっしゃってますが、業界に入ることは本気になれば、簡単だと思うんですよ。でも、続けることが難しい。だから、誰にでもできる仕事ではありますが、続けられるのは一握りの人間かもしれないと思います。
――作家にどんなスキルが必要ですか?
実弥島:ポジティブさは必要だと思います。これがないと、鬱(うつ)になっちゃいますよ。例えば、自分はこういう話をゲームにしたい、こういうシステムのゲームを作りたいと思っても、最初は絶対OKって言ってくれないんですよ。すでに出ているようなものであれば、出ているからダメ。新しいものだったら、先が読めないからダメ。そう言われたときにポジティブだったら、それをどうすれば通せるかってことを考えられるけど、ダメって言われて凹んでしまったら終わり。「おれの言うことを聞け。うるせぇ、やれ!」ぐらいの勢いを持ってないとやっていけないと思いますね。もちろん周りの人と合わせる協調性も大事なので、それがあることを大前提にして、我が通せないとダメですね。
――こういった仕事は特にメンタルは重要ですよね。
実弥島:私自身苦労もしているとは思うんですけど、そう思ったことがあんまりないんですよね。イヤなことがあったときも瞬間湯沸かし器のようにガーって怒るんですけど、一晩寝て翌朝になると「なんで怒ってたんだろうなぁー」って(笑)。過去にこだわらない性格はよかったと思います。あとは徹夜って普通ツライってイメージがありますけど、ご飯とかを買いに行ったときに「夜の街ってスゲー!」とか。締め切り間際で泣きながら小説書いてても、それが終わったら、目が冴えてきて「もう1本書ける!」とか。そういったポジティブに物事をとらえられる性格は必要かと思います。
――お話を聞いてて思ったんですが、確かに実弥島さんはポジティブですよね。
実弥島:基本わがままなんですよ(笑)。欲しい物とかしたいことを我慢すると、ストレスになっちゃうので、それを満たすために動いているという感じですかね。しかも、そうやって前向きにがっついて動いていると、周りの人も「これ好きだったよね」って、ゲームとかをくれたりしますし。メガCDの件みたいに、そこからお仕事につながったりもしますしね。好きだってことを主張するのは大事ですね。編集をしているときに、編集部の備品の3DO(※1)の遊びまくってたら、「そんなに好きなら」って、もらえたこともありましたし(笑)。
――子どもの頃からずっとポジティブだったんですか?
実弥島:そうですね。転校ばかりしていたときに、人の顔色を見たほうがいいのかな、傍若無人(ぼうじゃくぶじん)過ぎるのもよくないって思った時期がありまして。みんなにやさしくしていたら、今でも若干そうなんですが、女の子にすごくモテて、「私とあの子のどっちが大事なの?」みたいなことにしょっちゅう巻き込まれて……。「あー、メンドクサイ!」って、傍若無人に戻りました(笑)。
――人が集まってくるのもポジティブさからなんでしょうね。
実弥島:ホント人と運には恵まれてますね。知り合った人が実は有名なクリエイターさんだったとか、よくありますし。気付いたら、すごく人のネットワークができてたみたいな。それでなにかあると仕事のお話がきたり、仕事の大半は人の紹介なんですよね。そういった人脈を得られたという面で編集のお仕事をやったのはかなりプラスになってますね。あと文章を書くという面でも、趣味で書いているうちはやっぱり自分だけじゃ見えない部分も多くて、人に見せるための文章になりきってない場合が多い。でも、編集をやるとターゲット層にあわせて漢字を開く(※2)とか、そういった知識やスキルも身に付きましたからね。
――小説を書くために身につけておきたいスキルは?
実弥島:小説を書くってことだけを考えるのならば、本でも映画でもなんでも見ろって言うじゃないですか? でも、見なくてもいいかなって、個人的には思うんですよ。もちろん見る見ないで言ったら、たくさん見ているにはこしたことはないですけど、たくさん見ていれば、必ずしも作家になれるってものでもないので。それで以前考えたことがあるんですけど、作品を見るたびにどういう視点で見てるかってことが重要なのかなと。いくら触れてる作品の数が多くても、たとえばゲームならただ「おもしろい」とか、「なんだクソゲーだよ」って思って遊んでいるだけではダメで。なにがおもしろいのか、なにがつまらないのか、なにが快感なのか。プレイ後だったり、1周目は普通にプレイしても2周目でそういうことが考えられるかどうか。つまり作品が消化できているかどうかが重要なのかなと。それがきちんとできていれば、見ている作品が少なくても、物語を分解する能力があるので、お話を作れると思うんですよ。でも、いくらたくさんの作品に触れていても、それをしないでいる人は物語の分解ができないので書けない。あったらいいと思うスキルはそれかなと思います。
――今後の執筆の予定をお聞かせください。
実弥島:7月20日に発表になりましたが、『シンフォニア』(※3)の流れを汲む作品『テイルズ オブ シンフォニア ラタトスクの騎士(仮称)』のシナリオを書いてます(詳細はこちら)。あと時期やプラットフォームとかは秘密なんですが、岡田耕始さん(※4)のガイアさんともお仕事させてもらってます。これもゲームですね。それと電撃オンラインさんなので、絶対に言わなきゃいけないのが(笑)、月刊電撃マ王さんで夏以降にオリジナルの小説の連載をします。ファンタジー的な作品になります。ゲームではいろいろできなかったような激しい表現もあるかと思います(笑)。もちろん、ほかにもいろいろ水面下では動いてます。あっ、個人的には『バイトヘル2000』(※5)の小説が書きたいですね。ひきこもりの息子がいる43歳みつこの話(笑)。ボールペン工場(※6)の小説を、ぜひ!
――では、最後に未来のクリエイター、デザイナーを目指す人にひと言
実弥島:どこかゲーム会社に入社しても、いきなりシナリオを書かせてもらうようなことはまずありません。でも、自分のやりたいことができないからといって腐っていて、他の仕事がちゃんとできないような人間には仕事は回してもらえません。「とにかく腐るな!」ですね フリーも同じで、ゲームシナリオだけで食べていけるかっていうと大変だと思うんですよ、まずはその取っ掛かりをつかむまでは。「みんなは仕事があるのに、オレは仕事がない」ってことも多々あるんですよね(笑)。そんなときにやはり腐らずに、営業努力するってことが必要ですね。制作中もダメ出しされることが多いですし、基本的にダメなことの方が多い仕事です。でも、好きで選んだのだから腐らずにがんばっていって欲しいですね。
――お忙しい中、ありがとうございました!
やるまでも腐るな!
やってからも腐るな!
【編集部注釈】
※1 3DO……スリーディーオーと読む。エレクトロニック・アーツの創始者の1人が設立した会社が提唱した規格の32bitのマルチメディア端末で、日本では松下電器や三洋電機が発売した。32bit機ということで話題を呼ぶが、セガ・サターンやPSという次世代ハード戦争に勝ち残れず、衰退していった。
※2 漢字を開く……読み方が難しい漢字などをひらがなにすること。出版関係の業界用語。
※3 シンフォニア……2003年8月にナムコから発売された『テイルズ オブ シンフォニア』のこと。2004年にはシナリオを追加した、PS2版も発売されている。
※4 岡田耕始さん……『女神転生』シリーズのディレクターを務めたクリエイター。2003年にアトラスを退社し、株式会社ガイアを設立する。
※5 バイトヘル2000……2005年12月にSCEからPSP用ソフトとして発売されたミニゲーム集。ゲームディレクターはピエール瀧氏が担当しており、ひよこのオス・メスを仕分ける、心霊写真を鑑定する、シューベルトの魔王をゲーム化した縦スクロールアクションなど、全40種類あるミニゲームはどれも変なものばかり。ちなみにアートディレクションは「スーパーミルクちゃん」などでおなじみの田中秀幸氏。

(C)2005 Sony Computer Entertainment Inc.
※6 ボールペン工場……『バイトヘル2000』のミニゲームの1つ。流れてくるボールペンに延々とキャップをはめ続ける。
