

本好きなご両親の影響で、幼い頃から本に囲まれて生活してきたと語る実弥島巧さん。作家にはなるべくしてなったというその人生の裏側には、人と運を呼び寄せる類まれなポジティブさがあった! 今回は人生行路初のフリーランスでお仕事をするクリエイター。会社に勤めるのではなく、自分で仕事を取ってきて働くということについても知ろう。
――実弥島さんと言えば、『テイルズオブ』シリーズのシナリオで有名ですが、
『シンフォニア』(※1)のシナリオを書かれることになった経緯というのは?
実弥島巧(以下実弥島、敬称略):メガCDの『ゆみみみっくす』(※2)がすごくやりたくて、「メガCDがほしいんですよ」って、編集部で熱く語っていたら、たまたまいらしてたお客さんが「ぼくも『ゆみみみっくす』欲しくて買ったけど、遊んだらいらないから譲ってあげるよ」って言われて、メガCD一式を譲ってもらったんですよ。
――定価で5万円ぐらいするハードを! すごい太っ腹な方ですね。
実弥島:その後、その方にメガCDを遊んでいる人で、ゲームのテストプレイヤーを捜していると誘われ、編集の仕事と掛け持ちでよかったらということで『ルナ エターナルブルー』(※3)のテストプレイヤーをやらせてもらったんですよ。で、そのテストをしたロムというのが、ザコ敵は序盤しか入ってなくて、後半のボスが倒せないような状態のロムだったんですけど、クリアしちゃったんです(笑)。そうしたら、シナリオライターの重馬敬さん(※4)にものすごく驚かれて。さらに「ここの仕掛けはこうした方がいいですよ」とか熱く語ったらしく、秘密のエンディングとか見せてもらったりして……(笑)。ここでいったん重馬さんとは疎遠になるんですけど、私の友だちでポケモンの絵を描いている、にしだあつこさん(※5)も重馬さんとお知り合いで、あるとき「重馬さんがサイン会をやるので行く?」って誘われて、そのとき書いていた小説を重馬さんに渡したんですよ。そうしたら、すぐにお返事くれて、「今発注されているシナリオがあって、この実力なら、ゲームのシナリオもできるからやってみない?」と言われて行ってみたら『シンフォニア』だったと(笑)。
――もちろん『テイルズオブ』シリーズについてはご存知だったと思いますが、
『シンフォニア』のシナリオと聞いて、どうでしたか?
実弥島:東京ゲームショウで「このゲーム、しゃべりますよ!」って驚いて、『ファンタジア』(※6)を発売日に買ったぐらいですから、かなり驚きましたね。あと小説は書いてましたが、ゲームのシナリオの書き方がそもそもわからなかったので、どうしたらいいのか不安でした。でも、書き方は教えてもらえるということで、小説同様プロットを書いて提出したら、細かい修正はありましたが、おおむねOK。2000年の10月に開発に参加して、12月にはプロットはあらかた完成してましたね。ここでいったん『デスティニー2』(※7)のお手伝いをしまして、2001年の2月からまた『シンフォニア』に戻って、4月からシナリオの執筆。シナリオの執筆も小説を書くのと同じように、セリフを書いて、地の部分の代わりにト書を書けばいいということで、その通り書いていたら、出来上がっていたという感じですね(笑)。
――内容的に大きな修正などのトラブルもなくスムーズに?
実弥島:救いの塔とか、犠牲になる神子とか、世界が2つあるといった設定は最初の段階からほぼ変わりはありませんしね。『シンフォニア』もそうですが、バンダイナムコさんとの仕事で、プロットの段階でトラブったことはほぼありませんね。
――プロットを制作する前に打ち合わせというのはあるものなんですか?
実弥島:普通はありますね。『シンフォニア』のときはなくて、いきなりプロットを持ってたんですけど、『アビス』(※8)のときはありましたね。ゲームシステムのお話を聞いたりするような打ち合わせが。
――プロットの段階で、どのあたりまで細かく考えるんですか?
実弥島:世界観などはもちろんですが、主人公がこうなって、ヒロインがどうなるとか、ほぼ物語の最初から最後まで、プロットの段階で書いてますね。最後まできちんと書いてあるあらすじみたいなものになります。
――アイデアは、スーッと出てくるものなんですか?
実弥島:私は世界の枠組みを考えるのが好きで、どういう仕組みでできあがっている世界なのかを考えると、自然とお話ができてきますね。例えば、世界が2つある世界の物語なら、どうして2つあるのか? それはこういう理由だから、こういう主人公がいてといった具合に。まずは外堀から作っていって、それをもとに登場人物を考えて、さらに登場人物につけた設定から、また外堀をつめていく。人物から組み立てる場合もありますが、基本的にはこういう流れで考えてます。もともと資料を探すのが嫌いなんですよね。自分が考えた世界なら資料を探さなくてすむじゃないですか。だから、世界から考えるのが好きなんだと思います。ただ最終的には毎回いろいろ調べ物をすることにはなるんですけどね(笑)。
――よく参考にする本とかはありますか?
実弥島:どんな力の存在する世界なのかといった設定を求められることが多いので、SF好きということもあり、科学の本はよく見ますね。
――アイデアを捻出するための特別な方法とかはありますか?
実弥島:特別になにかするといったことはないですね。わりと怠惰な方で、オンオフをしっかりつけないとやらないので、だいたいパソコンの前で「やるぞ」って決めてやることが多いですね。学生時代は歩きながら考えることも多かったんですが、最近は四六時中働いているので、歩くときぐらいは息を抜いてます。そうしないと、パンクしてしまうので(笑)。
――プロットを考えるのはどれぐらい時間がかかるものなんですか?
実弥島:ゼロから考えてですよね? 一概にはいえませんけど、1週間ぐらいあれば2、3本は考えられますね。
――ここまではプロットのお話でしたが、
シナリオを書く際にこだわっている点や注意している点はありますか?
実弥島:ハッピーエンドとか、友情・努力・勝利とかは大好きなんですけど、基本的に自分が好きなものは書かないようにしていますね。もちろん好きなものを書いて、味が出るという作家さんもいらっしゃると思うんですが、私の場合は自分が好きなものを書くと、全部に対して公平な目で見られなくなっちゃう、偏ってきちゃうので。読み手として見たときに好きなお話やキャラクター、設定はあまり使わないで、自分に興味がないものの方に寄りがちですね。一番好きな小説のジャンルは、SFと推理小説なんですけど、一生仕事としては縁がないかなと。好き過ぎて書けないですね(笑)。
――仕事としてゲームシナリオを書く場合に気をつけていることはありますか?
実弥島:まずはユーザーの方を意識した上で、クライアントさんが求めているものを聞いて、求めているものとそのターゲット層にあった物語を書く。あくまでも作品ではなく、商品なんだという意識は常に持っていますね。自分の書きたいものとクライアントさんが求めているものが合致する場合はそれを盛り込みますが、合致しない場合は無理に自分を主張しない。私の場合はフリーランスなので、そこでクライアントさんに嫌われて、お仕事がこなくなっても困りますし。個性を出すにしても、クライアントさんの求めている範囲内で出すと。正直「自分好みのキャラがここで入れられたらなぁ」って思うことはありますが、お金もらって作らせてもらっている商品なので、そこは我慢してます。


【編集部注釈】
※1 シンフォニア……2003年8月にナムコから発売された『テイルズ オブ シンフォニア』のこと。2004年にはシナリオを追加した(これも実弥島さんが担当)、PS2版も発売されている。

(C)藤島康介 (C)NBGI
※2 ゆみみみっくす……1993年にゲームアーツが発売したアドベンチャーゲーム。インタラクティブコミックと銘打たれており、豊富なアニメーションや声優によるキャラの音声など、アニメ的な表現で当時話題を呼ぶ。キャラデザインだけでなく、脚本や設定なども漫画家の竹本泉氏が担当している。

(C)1992 竹本泉,GAME ARTS
※3 ルナ エターナルブルー……1994年にゲームアーツがメガCDで発売した、名作ロールプレイングゲーム。魔法世界ルナを舞台に、主人公ヒイロと謎の少女ルーシアの冒険が描かれる。なお、直接物語にはつながりはないが、『ルナ ザ・シルバースター』という前作が存在する。

(C)GAME ARTS/STUDIO ALEX
キャラクターデザイン/窪岡俊之
※4 重馬敬さん……読み方はしげまけい。シナリオ工房月光に所属する、『テイルズ オブ デスティニー2』や『ルナ エターナルブルー』などのシナリオや小説を数多く手掛ける作家。
※5 にしだあつこさん……ポケモンのモンスターデザインや『グランディア』のキャラクターデザインなどを手掛けるイラストレーター。
※6 ファンタジア……1995年12月にナムコからスーパーファミコン用ソフトとして発売された、『テイルズオブ』シリーズの記念すべき第1作目。現在ではPSPで遊ぶことができるなど、さまざまなハードに移植されている名作ロールプレイングゲーム。

(C)藤島康介/(C)NBGI
※7 デスティニー2……2002年11月にナムコからPS2用ソフトとして発売された、『テイルズオブ』シリーズの第4作目。実弥島さんも原案段階で一部シナリオ協力している。

(C)いのまたむつみ (C)NBGI
※8 アビス……2005年12月にナムコから発売された『テイルズオブ』シリーズの第8作目。「生まれた意味を知るRPG」がテーマとなっており、生きる意味・生命の価値など、シリーズ作の中では一線を画す物語となっている。