『N3』特別企画:電撃独占!短編ノベライズ公開中!

 『ルミネス』や『Rez』など、斬新なゲームデザインで知られるゲームクリエイター・水口哲也氏と、韓国のトップメーカーであるファンタグラム。その両者のコラボレーションによって生まれたのがドラマチック・アクション『NINETY-NINE NIGHTS(N3)』だ。2,000体ものキャラが入り乱れる戦場で敵をなぎ倒していく爽快感もさることながら、壮大なストーリーが展開する「マルチアングルシナリオ」も本作の魅力の1つ。これは、「人はなぜ戦争をやめられないのか」というテーマをバックに、複数のキャラでプレイしていくことで、さまざまな“正義”を描き出すというもの。戦う者たちが抱く、善悪では割り切れない正義が交錯する重厚なシナリオは、発売後も好評だ。
3回連続の小説企画の最終回となる今回は、現在発売中の電撃マ王7月号に掲載された『N3』の短編小説第3回を特別掲載する。今回の短編の主役は、6人のプレイヤーキャラクターのなかで唯一人間以外の種族であるゴブリンのディングバット。人間にも正義があるように、ゴブリンにも正義がある。そのことを痛烈に教えてくれるハードな一編に仕上がっている。前述したテーマをより深く理解するためにも、ぜひ読んでほしい。

◇第3回:ディングバット編「誇り高き戦士」 New!
◇第2回:テュルル編「選ばれし少女」
◇第1回:インフィ&アスファ編「新たなるはじまり」

NINETY-NINE NIGHTS(N3) ─ナインティナイン・ナイツ─

史上空前のドラマ&大軍勢ファンタジーアクション!

 一騎当千の能力を持つプレイヤーキャラを操作し、敵を倒していくアクション『N3』。最大の見どころは美しくも広大な戦場で展開する、ダイナミックなアクションだ。Xbox 360だからこそ実現できた2,000体ものキャラが戦うフィールドで、ド派手な技を駆使しして敵の軍勢を蹴散らしていく快感は、かつてないものと断言できる。また、自軍部隊を編成し、指示を出していく戦略性やさまざまなプレイヤーキャラの視点で物語を体験するマルチアングルシナリオにも注目だ!

画面写真
画面写真
  • ■メーカー:マイクロソフト
  • ■対応機種:Xbox 360
  • ■ジャンル:ACT
  • ■発売日:2006年4月20日
  • ■価格:7,140円(税込)
  • ■CERO年齢区分:15歳以上対象
  • ■関連サイト:
  • 公式サイト/ Xbox.com
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水口哲也氏&サンユン・リー氏のインタビュー掲載!

N3短編ノベライズ特別掲載第3回~誇り高き戦士~

 その夜、ゴブリン族の村アディは、いつもと変わらぬ穏やかな静けさに包まれていた。夜も更け、皆、寝静まり、心地よい夢の中で、新たな朝がやって来るのを待っている。夜空に浮かぶ月は、柔らかな優しい光を降り注ぎながら、安らかに眠る村の者達を見守っていた。あの醜い声が夜空に響き渡る、その時までは……。
静寂を破り、突如、人間達は平和なアディの村に襲い掛かった。
剣を手に醜い声を上げ、殺戮を繰り返すその姿はまるで獣の群れ。それでも村の者達は、生まれ育った故郷を守るため、身の回りの中から武器になるような物を手に取ると、果敢にも立ち向かって行った。
「人間共め! これ以上、俺達の村を荒らさせない!」
誇り高きゴブリン族の民は、決して人間などに屈しない。その命尽きるまで抗い続けるのだ。

「お前はここに隠れていろ。いいな、私が戻ってくるまで、絶対に外に出るな」
至る所で無数の悲鳴が上がる中、ゴブリン族の戦士ディンガは、まるで人間の様な白い肌を持った弟ディングバットの身を隠すため、納屋に押し入れた。
「兄さん、どうする気!?」
「皆を守る。それが、誇り高きゴブリン族の戦士の務めだ」
正規軍に属するディンガは、ゴブリン王ディクファリオからも目を掛けられる程の戦士であり、久方ぶりに故郷に戻ったところ、偶然にもこの事態に遭遇したのだ。
「すぐに戻ってくる。心配するな」
ディンガは優しく微笑み、弟の頭を撫でると、納屋の扉をゆっくりと閉じた。ディングバットはそんな兄の姿を、ただ見送る事しかできなかった。

つい先程まで柔らかな優しい光を降り注いでいた月は今、ただじっと事の次第を窺っていた。 月は、何もしてはくれない。ただ、光を降り注ぐだけだ。最早、その光から優しさなどは感じられない。それは、"月光"と言う名の光に過ぎないのだ。そんな月の光を浴びながら、ディンガは向かって行った。人間達の先頭に立つ"赤き騎士"の許へ。
納屋の扉の隙間から、その様子をディングバットは見つめていた。そして、彼の黄金色の瞳は、その光景を焼き付けた。赤き騎士の剣が兄の身体を貫く、その光景を……。

新たな朝を迎え、アディの村は、再び静寂を取り戻した。しかし、村の様相は、昨日までとは、まるで違っていた。人間達によって殺された村の者達の骸が至る所に横たわり、家屋の多くは火を放たれて崩れ、田畑は見る影もなく踏み荒らされていた。その中で、ディングバットは兄の骸を抱き、泣いていた。彼はただ悔しかった。何もできなかった己の無力さが……。彼はただ憎かった。兄を殺した赤き騎士が……。
「兄さーーん!!」
静寂を破り、アディの村に響き渡る哀号。だが、それに応える声を聞く事は、もうできない……。

それから数日後、首都レンディクオンでは、正規軍の勇士ディンガの葬儀がしめやかに執り行われていた。ゴブリン族の誇り高き戦士の死に、誰しもが涙する中、弟ディングバットの姿はそこになかった。彼は一人遠くから、葬儀の様子を、虚ろな眼差しで見つめていたのだ。
正規軍に属し、ゴブリン王ディクファリオの目に留まる程、出来の良い兄とは違い、その白い肌のせいで、皆から「人間のようだ」と馬鹿にされてきたディングバットにとって、兄は憧れの存在そのものであった。そんな兄が人間の手によって殺された……。その事実を、ディングバットは未だに受け入れる事ができないでいた。
とそこへ、葬儀を終えたディンガの妻が、ディングバットの事を気に掛け、やって来た。その腕に、夫の形見の品である剣とマントを抱えて……。
「ディングバット、これを……」
そう言って、ディンガの妻は形見の品を差し出した。
「義姉さん……」
しかし、ディングバットはそれらを受け取る事ができなかった。受け取ってしまえば、兄の死を受け入れる事になるからだ。すると、ディングバットは義姉に背を向け、歩き出した。
「ディングバット、どこに行くの?」
「奴の所だよ……。兄さんの仇を討つんだ」
「待ちなさい! あなた一人で、何が出来ると言うの!? ディンガの仇を討ちたければ、まずは正規軍に入り、それから……」
「そんな悠長な事、言っていられないんだ! 今この時も、奴はのうのうと生き続けている! そんな事、僕は許せない!」
「ディングバット……」
ディングバットの心は今、赤黒く染まっていた。"怒りの赤"と"憎しみの黒"が混ざり合った心……。その心に宿った意志を阻む事は、もう誰にもできない。ディンガの妻もまたその事に気付き、去り行く義弟の背中を、ただ黙って見送るのであった……。

葬送

 断末魔の叫びが空を翔けた。大地に横たわる騎士。その胸に深々と突き刺さった剣を、彼は躊躇なく引き抜き、呟いた。
「コイツも違うか……」
月日は過ぎた。いとも容易く騎士の命を奪ったのは、見違えるように成長したディングバットであった。その姿は、一年半前とはまるで違う。華奢だった身体は逞しく引き締まり、その眼は鋭く、数多の修羅場を踏んで来た事が一目で窺えた。彼は兄ディンガの仇である赤き騎士を追い求め、放浪の旅を続けていたのだ。
旅の途中、赤き騎士の噂を耳にすれば、直ちに向かい、この度のように、騎士の命を次々に奪ってきた。これまでに、あの世へ送った人間の数は、数え切れない。そんな白きゴブリン、ディングバットの噂は人間達の間にも広まり、遂には"白き騎士狩り"の異名を持つまでに至った。それでも、真の目的である赤き騎士の許には、未だ辿り着いていない。赤き騎士の首を刎ねるその日まで、ディングバットの旅に終焉は訪れないのだ。

そして、今日もまた、赤き騎士に関する新たな情報を求め、ディングバットは次なる土地へ向かっていた。その途中だ。彼は、ある紋章を目にした。それは、兄ディンガが属していた正規軍の物だ。太陽の光を反射させ輝く、煌びやかな甲冑に身を包んだ一行。隊列を乱さず歩むその光景は、実に壮観だ。そんな一行の姿を目にしたディングバットは、兄の勇姿を思い出していた。
正規軍に属し、数々の戦いで見事な活躍を見せ、その名を轟かしていた兄ディンガ。その死から一年半の月日が経った今も、ディングバットの記憶から、兄の勇姿が消える事はない。彼の中では今も尚、誇り高きゴブリン族の戦士ディンガは生き続けているのだ。
「まさか、こんな所で、"白き騎士狩り"に会えるとはな」
兄の記憶に想いを馳せていたディングバットに、彼は声を掛けてきた。正規軍一行の指揮官で、ディクライと名乗る男だ。ディングバットは、これまでも何度となく、"白き騎士狩り"の名で呼ばれ、その白い肌を物珍しげな眼差しで見られてきた。その度に、相手にせず、無視し続けてきたが、今回は違った。兄が属していた正規軍と言う事もあって、ディングバットは足を止め、ディクライとの会話を続けたのだ。
「これからどこへ?」
「この先の村だ。人間共の襲撃を受けているとの報せが入り、我ら正規軍が救援に向かうところだ」
「人間共の襲撃……」
その言葉を聞いた瞬間、ディングバットの脳裏に、あの赤き騎士の姿が過ぎった。もしやと思い、ディングバットはすぐさま尋ねた。
「その人間共の中に、赤き騎士はいないか?」
「いや、そのような情報は受けていない」
「そうか……」
期待は、また外れた。
「やはり、噂は本当のようだな。何処の隊にも属さず、ただ一人で、赤き騎士を追い求め、放浪の旅を続ける白き騎士狩り……」
まじまじと、ディングバットの姿を見つめるディクライ。すると、徐に彼は言った。
「どうだ? そなたの力、貸してはくれないか?」
突然のディクライの申し出に、ディングバットは迷わず答えた。
「悪いが、先を急いでいる」と……。
ディングバットにとって、赤き騎士に繋がらぬ戦いは、ただ時間の浪費に過ぎなかった。一刻も早く、赤き騎士をこの世から葬り去りたいと願っている彼にとって、一分一秒でも惜しいのだ。それに、ディングバットは知っていた。兄が属していた正規軍の力を……。
「正規軍ならば、人間共の一小隊や二小隊、恐れる必要もないだろう。俺の出る幕ではない」
ディングバットがそう告げると、ディクライは口元に笑みを浮かべ、
「やはり駄目か」
と、まるで彼の言葉を予期していたかのような口ぶりで応えた。そして、徐に振り返ると、部下達に向かって「行くぞ!」と声を上げた。
「白き騎士狩りよ、さらばだ。また会う時は、共に戦いたいものだ」
そんな別れの言葉を残し、ディクライは部下達を連れ、再び歩き出した。隊列乱さず進む一行。その姿を見送ると、踵を返し、ディングバットもまた歩き出した。彼はその時まだ知らなかった。これが、一行との最期の別れになる事を……。

ディングバットがその事態に気付いたのは、正規軍一行と別れてから、一時間も経たぬ内だった。
「あれは……まさか!?」
正規軍一行が向かった先、その空が炎で赤く照らされていたのだ。俄かには信じ難い。己の目も疑った。しかし、その光景は紛れもない現実だ。
次の瞬間、ディングバットは駆け出していた。何も考えなどない。足が勝手に動いていた。来た道を、ただ、ひたすら走り続けた。

夕陽を浴び、その村は赤く染まっていた。いや、夕陽の赤だけではない。その赤は、村の者達や正規軍が流した血の赤だ。村は血の赤に染まっていた。そして、そこには、我が物顔で闊歩する人間達の姿があった。
「おのれ、人間共!!」
ディングバットの怒号が、茜色の空を翔る。突如、響き渡った怒号に振り向く人間達。ディングバットの姿を捕らえると、その瞳は恐怖に満ちた。白き騎士狩りの出現に、驚きを隠せない。だが、多勢に無勢と見るや、手のひらを返して戦意を取り戻し、人間達は剣を取った。
「愚かめ。数など関係ない」
ディングバットはまるで動じず、そう言い放つと、次の瞬間、光となった。剣を抜き、単身、人間達の中へ飛び込むその速さたるや、並みの者の目では捕らえる事ができない。人間達にとって、それは一瞬であり、それでいて、永遠であった。気付いた瞬間、すでに首は胴から離れ、人間達は永遠の眠りに落ちているのだ。

惨劇

 日が暮れ、先程まで赤く染まっていた村は、黒く移り変わっていた。人間達を一人残らず消し去り、静寂を取り戻した村の中で、ディングバットは一人佇んでいた。その目に映る光景は、あの時と同じだ。至る所に横たわる村の者達の骸、火を放たれて崩れた家屋、見る影もなく踏み荒らされた田畑……。夜空に顔を見せた月もまた、あの時と同じように、ただ"月光"と言う名の光を降り注いでいた。
その時だ。確かに、それは聞こえた。風の音……。いや、違う。それは、声。何者かの声だ。
ディングバットは、すぐさま声の方へ走った。すると、焼け落ちかけた家屋の中から、弱々しいが、確かに声が聞こえた。扉を破り、中に入る。すると、そこには、崩れた壁の下敷きになった村の幼い少女の姿があった。
「待っていろ! 今、助けてやるからな!」
ディングバットは崩れた壁をどかし、少女を抱きかかえると、家屋の中から飛び出した。
少女はディングバットの腕の中で、ブルブルと身体を震わせている。あの時のディングバットと同じだ。少女の辛さが痛い程分かる。ディングバットは震える少女の肩を優しく抱き寄せた。すると、少女は呟いた。
「みんな、みんな、死んじゃった……」
少女の言葉が、ディングバットの心を揺さぶる。あの時、正規軍の指揮官ディクライの申し出に応じていれば、こんな悲劇は起きなかった筈だ。ディングバットの脳裏に、兄ディンガの残した言葉が過ぎった。
"皆を守る。それが、誇り高きゴブリン族の戦士の務めだ"
その時、ディングバットはようやく気付いた。兄は皆を守るために戦い、そして、命を落とした。しかし、自分は違う。兄の仇と言う名目で戦ってきたが、それは決して兄のためではない。己の心に芽生えた憎しみを晴らすためだ。兄が望んでいたのは、皆を守る事。それを為さずして、兄の仇を討つなどと口にしてはいけない。ディングバットは、その事にようやく気付いた。
「すまなかった……」
少女を抱きしめ、彼は泣いた。ただ、ただ泣いた。少女もまた、そんな彼の胸の中で、泣き続けた。二人の泣き声が夜空に響いた。

「一年半ぶりか……」
そう呟いたディングバットの視線の先には、生まれ故郷アディの村の豊かな大地が広がっていた。この一年半の間に、アディの村は復興が進み、以前の穏やかさを取り戻しつつあった。一年半ぶりに歩くアディの村。その大地を、ディングバットはしっかりと踏みしめていた。
「ディングバットだ! ディングバットが帰ってきたぞ!」
彼の噂は、アディの村にまで届いていた。誰しもが、逞しく成長した彼の姿に驚嘆する中、以前と変わらぬ優しい眼差しで迎えてくれたのは、兄ディンガの妻であった。
「おかえりなさい、ディングバット」
「義姉さん……。ただいま」
「立派になって。一年半の間、この日をずっと待っていたわ」
「義姉さん、俺……」
「分かっている。受け取りに来たのね、ディンガの遺志を……」
義姉のその言葉に、ディングバットはしっかりと頷いた。

茜色の空の下、ディングバットは初めてその地に足を運んだ。アディの村を見下ろす丘……。兄ディンガが眠る地だ。兄の死を受け入れる事ができなかった彼が今、一年半の月日を経て、兄の墓前に立った。
「兄さん……。待たせたね」
兄が眠る墓を見つめるディングバット。その瞳に輝くのは、ゴブリン族の誇り高き戦士の魂だ。
「俺は皆を守るよ。それが、ゴブリン族の誇り高き戦士の務めだから。そうだろ、兄さん……?」
亡き兄にそう語り掛けると、ディングバットは義姉から受け取った兄の形見の品である剣とマントを身に纏った。己の剣と兄の剣、二刀をその手に握り、夕陽を浴びて朱色に染まったマントをなびかせ、誇り高き戦士は誓った。
「俺が皆を守る。見ていてくれ、兄さん……」
誇り高き戦士の戦いが、今ここから始まる。

誇り高き戦士

終わり