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2015年1月9日(金)

ユービーアイソフト スティーヴ社長が語る『ファークライ』シリーズ。アメリカのゲーム会社との違いも激白

文:イトヤン

 ユービーアイソフトより1月22日に発売されるPS4/PS3/Xbox One/PC用ソフト『ファークライ4』。2015年最初の特集記事となる今回は、本作の発売元であるユービーアイソフト株式会社のスティーヴ・ミラー代表取締役と、福井蘭子PRマネージャーのインタビューをお届けする。

『ファークライ4』
▲スティーヴ・ミラー代表取締役(写真左)と、福井蘭子PRマネージャー(写真右)

 『ファークライ4』のゲーム内容やローカライズについてはもちろんのこと、前作である『ファークライ3』の話題やユービーアイソフトという企業のカラーについてのお話も聞くことができたので、ぜひ注目してほしい。

■強烈な悪役の存在が、『ファークライ』シリーズの分岐点になった

――『ファークライ』シリーズは、『ファークライ3』でその内容が大きく進化したと思います。そこで『ファークライ4』の話題に入る前にまず、『ファークライ3』を最初に見た時の反応から、お聞かせください。

『ファークライ4』

スティーヴ氏(以下敬称略):私も蘭子も、『ファークライ3』の動く映像を初めて見たのは、2011年のE3のUBIプレスカンファレンスだったんですよ。開発側の準備が整うまでは、同じユービーアイソフトの社内でもなかなか教えてもらえないんです。それでE3で初めて見た時は、本当にビックリしました。

 『ファークライ2』については、開発チームは非常に頑張ってくれたと思います。ユーザーに新しい体験を提供しようと、アフリカの砂漠を舞台にしたゲームを作り上げてくれたんです。

 マップが広大で、プレイヤーが行動できる空間の自由度は素晴らしかったけれど、でもそれが楽しい体験になっていたかというと……。マップが広すぎるのも楽しくない、広さだけじゃなくて、行動の密度が伴っていなければならないと、開発チームは『2』で学んだのだと思います。

 その結果、『ファークライ3』では行動できる空間を南の島に限定する代わりに、その島内で最大限の楽しみ、最大限のドキドキを提供するという形を選んだんですね。

 それから『ファークライ3』ではなんといっても、悪役であるバースのパーソナリティが素晴らしかった。バースという狂気に満ちたキャラクターが生まれたことが、『ファークライ』というシリーズの分岐点になったと思います。

『ファークライ4』
▲『ファークライ3』で、主人公を絶望の淵へと導く、狂気の海賊バース。

福井さん(以下敬称略):そもそも最初の企画段階では、バースというキャラにはそんなに重きを置いていなかったんですよ。でも、開発スタッフがバース役の俳優さんをオーディションした時に“こいつはヤバい!”と思ったそうなんですね(笑)。この逸材を放っておくわけにはいかないと、バースのキャラが立つように、シナリオなどを変更したそうなんです。

 ユービーアイソフトのゲームは、『アサシン クリード』が代表的な例ですが、海外のほかのゲームメーカーに比べて、キャラクターが立っているんですね。とはいえ、『ファークライ』シリーズはもともと、オープンワールドの自由な行動を楽しむゲームというのがコンセプトなので、ストーリーやキャラクターはそれほど重視されていなかったんです。そこにバースという強烈なキャラクターが現れたことで、『ファークライ3』はふだんFPSなどを遊ばない方にも楽しんでもらえるようになったのかなと思います。

スティーヴ:その通りです。決断を下した開発陣は素晴らしいですね。

福井:ただ、バースのキャラクターがあまりにも強烈すぎたので、正直言ってユーザーさんは、バースをラスボスだと思ったかもしれません。でも実際には、物語の途中でバースがいなくなってしまうので、プレイした方は「あれっ?」と思われたかもしれませんね。

――『ファークライ4』では、『3』のバースに当たるインパクトのある悪役として、パガン・ミンが登場しますが? 

福井:『4』ではたしかにパガン・ミンという存在を押し出していますし、開発スタッフもバースのことをすごく意識して、パガン・ミンのキャラクターを作り上げているとは思うんですが、パガン・ミンはバースと比べると、立ち位置がかなり違うんですね。パガン・ミンは独裁者ですから、『4』の舞台となるキラットという国のあちこちにその存在が影を落としていて、この国で何が起きているのかを象徴する存在として、パガン・ミンがいると思うんです。

『ファークライ4』
▲『ファークライ4』でヒマラヤの小国キラットを支配する独裁者、パガン・ミン。

スティーヴ:『4』はさすがにE3よりも少し前に社内で見せてもらったんですが、最初に見た時の私自身の印象を言えば、パガン・ミンはやっぱりバースほどのインパクトはなかったんですね。バースは見た瞬間に“こいつとは関わりたくないぞ”と思わせるものがありましたから。でも最終的に、E3で発表する『ファークライ4』のトレイラーを見せてもらったら、“これはイケる”と思いました。

福井:最初に社内で情報が来たパガン・ミンは、今とはかなり雰囲気が違ったんですよ。

スティーヴ:イメージ画だけでしたね。ピンクのスーツを見て“これが悪役?”って思いました。どっちかというと、クイズ番組の司会者みたいで……。

福井:バースが醸し出す、悪のフェロモンみたいなものはとにかく凄すぎましたから。でも実際にゲームに出てくるパガン・ミンはよかったですね。

 それと『ファークライ4』では、主人公のエイジェイ・ゲールがキラットにいるいろいろな人たちと関わっていくことで物語が進んでいくんですが、そこで登場するキャラクター全員に、すごくいい肉付けがされているんです。だから今回はパガン・ミンだけでなく、キャラクター全員に魅力があると、私自身は感じています。

 なので『4』では、好きなキャラクターがユーザーさんごとに違ってくるのかな、と思っているんです。発売後に自分はどのキャラクターが気になったのか、ぜひ教えてもらいたいですね。

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■他人に“思わず話したくなる”プレイを動画でシェアすることも可能に

――この記事を読んでいる人の中には、『ファークライ3』をプレイされた方と、プレイされていない方の両方がいると思います。そこで、それぞれに向けてのオススメのポイントを教えてください。

『ファークライ4』

福井:『ファークライ』シリーズというのは基本的に、“こういう遊び方ができますよ”というプレイのベースは共通しているんですが、ストーリーやキャラクターはまったくつながっていないんです。ですから『3』をプレイしたことのない方でも、まったく何の先入観を持たずに『4』のプレイを始められます。厳密にはハークっていう『3』のキャラクターが『4』にも登場しますが、この人についても特に予備知識は必要ありません。

 一方で『ファークライ3』を遊んだことのある方なら、野生動物の狩りや拠点の制圧、マップのエディットなど、『3』で楽しめた要素がすべて正統進化しているのが『4』なんです。ですから『3』を楽しいと思ってくれた人なら、『4』も必ず楽しいと思ってもらえる作品になっていると思います。

スティーヴ:予備知識は必要ありませんが、『ファークライ3』はPS3のベスト版も出ていますので、気になる人はぜひ遊んでもらえれば(笑)。『4』の発売が近づいて、『3』のベスト版もまた売り上げが伸びてきているんです。

福井:『3』はおかげさまで、プレイした方からすごく高い評価を頂いているので、気になっている人も多いと思うんですよ。とはいえ、発売してから1年以上経っていますし、もうすぐ『4』も出るし……ということで悩んでいるのでしたら、『4』から遊んでいただいて、何の問題もありません。

――私もこの特集記事で『4』をプレイさせてもらっていますが、『3』で楽しかったこと、こういうことができたっていうことは『4』でもほぼ全部できますよね。

福井:ほぼできますね。もちろん、『3』をプレイしたユーザーさんから“ここはもっとこうしてほしい”という意見が寄せられて、変更している部分もあるとは思うんですが。

――特に『ファークライ3』をプレイしていて、思わず“こんなことが起きたんだよ!”って他の人に話したくなる感覚は『4』でもそのままというか、よりパワーアップしているように感じました。

福井:その点で『ファークライ4』は、新世代機のシェア機能にも対応しているので、今までは言葉でしか伝えられなかったものが動画やスクリーンショットを使って、もっと身近に伝えられるようになっているんですね。

 実はちょうど昨日プレイしていたら、トラとクマとバッファローと自分の四つどもえになったんですよ。トラとクマが睨み合ってるので、“こりゃヤバい”と思って逃げたら、向こうからバッファローが追いかけてきて……。とりあえず火炎ビンを投げたら、オオカミに噛み殺されたっていう。“なんだこれは!”ってなりました。

スティーヴ:それは恥ずかしくて、シェアできないね(笑)。

『ファークライ4』
▲キラットに住む動物たちが、時に味方となり敵にもなる。

福井:しかも、リトライして同じ場所に行ったら、今度は誰もいないんですよ。同じことは二度起きない、そんなことは自然の中では通用しないっていうことをまざまざと見せつけられた瞬間でしたね(笑)。そういうところもユーザーさん同士で「自分の場合はこうだった」という話がしやすいだろうと思います。

――『ファークライ3』の時に、電撃オンラインの企画でトラが出てくる動画を撮影することになって、トラがいそうなエリアの草むらにずっとしゃがんで張り込んでたんですが、なんだか本物の動物カメラマンになったような気がしたのを思い出しました。

福井:わかります! 出会いたいと思う時に限って出てこないのに、なんでどうでもいい時に出てくるんでしょうね。

スティーヴ:出てきたと思ったらブタとか、どうでもいい動物だったり。

――なんでミッションに向かってる時に限って出てくるんでしょうね。

福井:“今じゃないよ!”ってなりましたね。それがまたゲームの中で見透かされてるような気がするんですよね。

スティーヴ:スコアを競ったり、クリア時間を競ったりといたことに向いているゲームもたくさんあるし、それが楽しいっていう人も大勢いると思いますが、「この間ここを歩いてたら、こんなトンデモナイことになったんだよ」って、みんなで話し合えるゲームもイイですよね。

 『ファークライ3』の場合は、ゲームを買ってくれた方からの口コミで、人気が広がったと思うんです。今はSNSのトラッキングシステムも進化しているので、『4』に対してみなさんがどのように反応してくれるのか、すごく興味がありますね。

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■いろいろな条件が重なった結果、海外の2カ月後に発売という形に

――『ファークライ4』は、海外での発売が11月下旬で、日本は1月29日と約2カ月ほど間隔が空いていますが、この理由は? 

スティーヴ:英語版のスクリプトができあがって、それを日本語に翻訳するとなると、どうしても2週間から1カ月ぐらい遅れが出てくるんです。各国語版が全部揃った段階で世界同時に発売するっていう作り方もあるとは思うんですが、ユービーアイソフトの場合はそうではないですね。

 『ファークライ4』に関してはいろいろな条件が重なって、約2カ月の遅れが出てしまいましたが、なるべく海外の発売日から2週間~1カ月以内の間に発売したいと思っています。

福井:『ファークライ4』ではCEROの基準に基づいて、欠損表現や性的表現を修正しています。『アサシン クリード』のように毎年発売されているシリーズだと、日本独自の修正が入るとしても、スタジオ側の開発スタッフも慣れてきたので、修正の予測ができているんですよ。

スティーヴ:日本からはたぶんこういうリクエストが入ってくるから、そのための作業期間をあらかじめ用意しておこうと。

福井:でも『アサシン クリード』以外の開発チームだと、日本向けの修正に対応していると他の開発リソースが削られてしまうので、「まず英語版のゲームを発売してから、その後で日本向けに修正する時間をください」と言われてしまうんです。そのタイミングと、年末年始のお休みがぶつかってしまったのが今回は大きいですね。

スティーヴ:修正を要求しているのは日本だけじゃなくて、ドイツやオーストラリアなどもそれぞれ独自の基準があるので、必ずしも日本が優先されないわけなんです。もう少しスマートなやり方もあるんでしょうが……。

福井:そこは今後の課題ですね。ユーザーさんにしてみれば、海外とタイムラグなく遊びたいと思うのは当然だと思いますし、私たちも海外と同時期に発売できれば、それがいちばんいいと思います。ただ、日本でゲームを開発しているわけではないので、日本でできる最大限のことをやるというのが、今の私たちの立場ですね。

スティーヴ:『ザ クルー』は英語版がかなり早く完成していたので、日本でも同時発売できたんですが。

福井:あれはMMOですからね。MMOやシューターだと、海外との時間差をできるだけ短くしないと、ユーザーさんの間で差が開いてしまうということがありますから。『ファークライ4』にもオンライン対戦はあるんですが、いまだに『3』のオンライン対戦にユーザーさんがいてくれたりもするので、そこは許容してもらえるのかなと。

『ファークライ4』
▲北米大陸を自由に走り回れるオープンワールド型MMOレーシングゲーム『ザ クルー』。

スティーヴ:でも、海外から少し遅れて発売すること自体は必ずしも悪い面だけじゃないとも思っています。海外と同時に発売すると全世界で数百万人が一斉にサーバーにアクセスして、オンライン機能がパンクしたりすることもあるので。

福井:一日も早く遊びたいというお客様の欲求と、より完璧な状態で遊びたいというお客様の欲求と、本当はその両方に対してお応えしなければいけないのですが、その中で日本法人としてできることがそれぞれあります。タイトルによって開発スタジオも違えば、対応してくれる人たちも違うというのが、悩ましいところですね。

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■パガン・ミンの声優選びには、徹底的な議論が……

――『ファークライ4』を日本語にローカライズする上で、特に苦労した点は? 

福井:『アサシン クリード』だと歴史が物語に深く関わってくるので、テキストだとかセリフの言い回しだとか、そういった部分での用語統一が必要なんです。『ファークライ4』は現代の架空の国が舞台なので、そうした面での苦労というのはそんなに聞いていないですね。ただ、英語のスクリプトが来て、それを日本語に翻訳して向こうに戻すんですが、そこの段階での修正がとにかく多かったんですよ。

スティーヴ:実際のゲームを見ずに、スクリプトだけで翻訳をやっているので、このキャラクターは何の話をしているの? このキャラとこのキャラはどう結びついているの? っていうのがわからない状態で、とりあえず日本語に置き換えてみようっていう形になるんです。それで途中まで出来上がったゲームと、日本語の翻訳を一緒にしてみると、想像したものとぜんぜん違いましたね。

福井:向こうから送られてきたキャラクターのイメージ画と、すでに収録が終わっている英語の音声だけで、発売の半年ぐらい前に日本語版の声優さんを決めないといけないんですよ。日本語音声を収録して、それをゲームに落とし込んだら、キャラの年齢に比べて声がやたら若くなったりだとか、イメージがぜんぜん違うといったことがすごく多くて。これは『ファークライ4』だけではなくて、どのタイトルでもあることなんですが、今回は特に苦労していると思います。

スティーヴ:あとはCEROの問題ですね。ドラッグなどについて、ストレートに表現すると日本では発売できなくなってしまいます。なので“この飲み物を飲むと気分が良くなりますよ”とか、そんな感じで曖昧に表現したりしています。

福井:『ファークライ』シリーズはドラッグだとかセックスだとか宗教だとか、現代の私たちにも関わる話題がふんだんに盛り込まれているので、日本で発売できるようにするための努力というのは、ひとしおですね。

スティーヴ:クリエイターが作ったままの形で日本でも発売できればいちばんいいんですが、それができない場合は多少、柔らかくする必要があります。許容範囲の問題ではありますがね。

――先ほど声優さんに関する話題が出ましたが、『ファークライ4』のキャスティングについては、いかがですか?

福井:パガン・ミンの声優さんに関しては、とにかく徹底的に話し合いました。通常は、ローカライズのスタッフが候補の声優さんをリストアップして、特に問題がなければ最終的な選択はローカライズの担当者に任せるんです。ただ今回のパガン・ミンに関しては、マーケティングのメンバーも総動員で、徹底的に話し合いました。

スティーヴ:バースのおかげでハードルが高くなりましたからね。

福井:いろいろと議論を重ねた結果、藤原啓治さんにお願いすることになりました。藤原さんにお願いしてよかったです。ゲームをプレイしていても、何の違和感もないんですよ。

『ファークライ4』
▲パガン・ミンの声は藤原啓治さんが担当することに。

 声ってすごく重要で、その声だけが目立ってしまっても、ある意味、失敗だと思います。特に『ファークライ4』のようにその世界の中に入り込むタイプのゲームでは、声が自然じゃないと、ゲームに没入できないですから。もちろん、藤原さんだけじゃなくて、エイジェイ役の近藤孝行さんをはじめ、みなさん本当に自然で、ローカライズチームには感謝しています。

→『ファークライ4』声優発表記事はこちら

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■ユービーアイソフトにはアメリカの会社のような“優越感”は存在しない

――ここで『ファークライ4』の話題から離れて、ユービーアイソフトという会社そのものについてお聞きしたいと思います。海外のゲームメーカーというとアメリカの企業のイメージが強いですが、フランスに本社があるユービーアイソフトは、アメリカの企業とは異なる面があるのでしょうか? 

『ファークライ4』

スティーヴ:ユービーアイソフトはヨーロッパの会社だけあって、周囲のいろんな国と共存しなきゃいけないんです。フランスだけじゃなくて、隣のドイツの市場も大きいし、UK(イギリス)もものすごく大きな市場だし、スペインやイタリアも重要だし……。

 なので、言い方は悪いですが、アメリカの会社にあるような“優越感”はないですね。“アメリカで何百万本売れてるから、日本でも売れるだろう”とか、“アメリカで流行ってるから、当然日本でも流行るだろう”とか、そういう考えは、ユービーアイソフトにはありません。その代わりに“あなたの意見はどうですか?”とか“これはアジアでも売れなきゃいけないから、そのためにはどうしたらいいですか?”って、周りに受け入れられるために、相手はどう思うかということを考えてくれる会社ですね。

 『アサシン クリード』は世界中で大ヒットしているし、ゲームそのものにも自信があるタイトルなので、日本でもヒットしてほしいとは思っているでしょうが、“日本でもミリオンセラーにならないとおかしいよね?”ということではないんです。

 隣の国のテイストは違うし、隣の国のマーケティングのやり方は違ってくる。そういう周りに対する理解のある会社ですね。

 あとはフランスの国民性だと思うんですが、日本のアーティストをすごく尊敬していて、その作品にすごく興味を持っているんです。映画、音楽、アート、漫画、アニメ……いろんなジャンルについて、詳しく知っている人が多いんです。それだけに、自分たちの作っているものが日本に受け入れられたいとていう思いは強いみたいですね。パリでは毎年、“ジャパンエキスポ”っていう日本文化のお祭りをやっているぐらい、フランス人は日本の文化が好きなんですよ。

福井:『ウォッチドッグス』の時に、監修で佐藤大さんを起用したいという話になったんですが、その分の予算を本社に申請したら、絶対にツッコミが入るだろうと思っていました。

 案の定、「この予算はなんだ?」って指摘されて、「佐藤大さんを起用するのに必要なんです」って答えたら「それならオッケー!」って即、返事が来ました。そういった具合に、海外で出ているゲームを日本の文化に合う形に監修してもらって発売するということを、ちゃんと理解してくれる会社ですね。

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▲近未来のネットワーク社会を描いた『ウォッチドッグス』。日本語版の監修を手がけた佐藤大さんは、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の脚本などで、海外でも知られている。

スティーヴ:CEOのイヴ・ギルモも、日本にすごく興味を持っているんです。日本で流行っているものは1年後、2年後に必ずヨーロッパでも流行ると考えているみたいで、「日本でモバイルゲームは今、どうなってる?」とか、日本の動向をすごく気にしてるんですよ。それは我々としては嬉しいですね。

福井:私も別の外資系の企業で働いた経験がありますが、この会社は本当に特殊ですね。こんなに自由にやらせてくれるというか、「日本ではこうしますよ」って伝えて「わかった、頑張れ」って言ってくれる会社って、北米の企業ではあり得ないことなんです。

 他の外資系企業だと「意味がないからやめろ」って言われることがすごく多くて、でもそれをやることが日本にとってどれだけ大切なことか、本国の人間は日本に来たことがないからわからない。でもユービーアイソフトの場合は、ちゃんとこちらの話を聞いて、わかろうとする努力をしてくれるんです。もちろんそれでも伝わらないことは多くて、意思の疎通はなかなか難しいんですが、こんなに話を聞いてくれるというのは、カルチャーショックを受けましたね。

 とにかく、トップダウンでガーン! と来ることが非常に少ないんですよ。本当はあるのかもしれないですが、スティーヴが上手くやってくれてるのか、現場の私たちはぜんぜん感じないですね。

スティーヴ:“スティーヴのおかげです”って、はっきり言ってくれていいよ。

福井:スティーヴのおかげです!

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■社長とユーザーが気さくに話せる“UBIDAY”は小さな会社だからこそできること

――スティーヴ・ミラーさんが、ユービーアイソフト株式会社の代表取締役に就任されてから、2015年で8年目となりますが、その間で特に印象的だった出来事は? 

スティーヴ:やはり“UBIDAY”の開催ですね。もともと、日本のゲーム会社のトップ10になりたいと思っていて、その最初のゴールがようやく見えてきているんですが、私がこの会社に入った時はまだ『アサシン クリード』も出ていないし、トップ10どころかトップ20にも入ってなかったんです。

 でも本社はヨーロッパのトップ5に入るゲーム会社ですから、東京ゲームショウ(TGS)にも当然ながら出展するという形になりました。タイトルも少ないですし、予算も厳しかったんですが、本社はすごくやりたがった。それで2009年、2010年と2年連続でTGSに出展しましたが、その後はTGSよりも、E3とgamescomに集中したいという話になったんです。それなら私たち単独のイベントをやろうということで始まったのが“UBIDAY”です。

『ファークライ4』
▲ベルサール秋葉原の1FとB1Fを使って行われた“UBIDAY2014”

 でも『アサシン クリード』だけでは、ユービーアイソフトのお祭りにはならない。やっぱり3つ、4つのタイトルがないと。タイトルが集まるタイミングだとか、本社の理解だとか、いろいろな条件が重なって“UBIDAY”を開催することができて、先日の“UBIDAY 2014”で3回目です。自分の会社を褒めるのは変な話なんですが、こんなにいいイベントになったのはすごくよかったし、やってよかったですね。そしてもっと続けたいですね。

福井:本社の理解度も、年々上がっていますよね。

スティーヴ:彼らも参加したがってますね。本社の社員がたまたま日本に旅行に来ていて、「日本でこんなイベントをやってるなんて知らなかった」って、SNSにアップしてたりしているんです。

福井:該当タイトルの開発スタッフからもいろいろと声をかけられますよ。E3の時に「今年も“UBIDAY”があるなら日本に行くよ」ってめっちゃアピールされて……。「必要があるならお呼びしますので」って、丁重にお断りしましたが。

 物販も、最初は自分たち独自でグッズを作っていたんですが、ユービーアイソフトにはモントリオールに“UBIワークショップ”っていうグッズ専門の部署があるんです。弊社のマーケティング担当がそこの担当としっかりと話をして、“UBIDAY 2014”ではいろんな種類のグッズを輸入して販売することができました。そんなふうに、毎年続けているからこそ、みんなの協力が得られるようになって来ているのは、すごくいいことですよね。

『ファークライ4』
▲2014年11月に開催された“UBIDAY 2014”では、物販コーナーに長蛇の列ができていた。

――来場者の数も、回を追うごとに増えているように感じましたが?

福井:具体的に何%増えたかっていう数字は出せないんですが、体感的には毎年30%ずつぐらいは上がってますね。

スティーヴ:特にこのあいだは、天気がよかったから。

福井:2013年は大雨で、それでも来たいっていうお客様しか来なかったと思うんですが、ありがたいことに大勢来てくださいました。それに比べて2014年は天気が良かったので、コスプレイヤーさんも表の撮影スポットで大勢、写真を撮ったりしてくれていましたし。

スティーヴ:『ファークライ4』のパガン・ミンのコスプレをしている人も、何人もいましたよ。まだ発売前なのに(笑)。

福井:時間をかけてコスチュームを制作してくださっているわけですから、ユービーアイソフトのゲームをそれだけ好きでいてくれている方が増えているんだと思うと、本当にありがたいですよね。

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▲アサシンやパガン・ミンなど、多数のコスプレイヤーが“UBIDAY 2014”に集合。そのクオリティの高さにも驚かされる。

 “UBIDAY”は、会場で一日楽しめるようなイベント作りをしたいというのがコンセプトなんです。そのために試遊や物販だけじゃなくて、イベントステージがあったり、飲食や休憩ができるスペースがあったりするっていう形になっているんですが。

スティーヴ:東京近辺だけじゃなくて、もっと遠いところから来てくださるお客さんもいるので、ちょっとゲームを試遊して帰るっていうだけじゃなくて、来た甲斐があったって感じてもらいたいんです。

『ファークライ4』
『ファークライ4』
▲こちらも“UBIDAY 2014”より。会場の飾り付けからコラボフーズまで、遊び心いっぱいの展示となっていた。

福井:私たちがユーザーさんと直接お話しできる機会って、実はあまりないんですよ。今ならSNSがありますが、SNSって公式アカウントに連絡が来る時はたいてい「ここを直してください」といった、そういう要望や質問が多くなるので、双方向の関係性って作りづらいんです。

 “UBIDAY”のような形で、お客さんと直接お話しできる機会を設けることができるのは、本当に貴重だと思います。だって、なかなかないですよ。社長が普通にお客さんと会話してるのって。

スティーヴ:私の喜びですから。

福井:でも、そのハードルの低さが、この会社のよさだと思うんですよ。

スティーヴ:この会社が100人、1000人の大きな会社になったら素晴らしいことなんですが、それだけ大きくなったらできなくなることも出てくるんですね。社員が20数人しかいない小さな会社だからできることを、大事にしていきたいと思っています。

――では最後に、ユービーアイソフトにとって2015年はどのような年にしていきたいですか? 

スティーヴ:2014年はPS4、Xbox Oneと新しいハードが出て、ユービーアイソフト自体も新世代機にどんどんシフトしています。でも日本は海外に比べて、新世代機に移行するのが遅かった。そのハードルはありましたが、新世代機の波にはうまく乗れていると思います。『ウォッチドッグス』をはじめ、新世代機らしいソフトもたくさん出ましたし。

 2015年は、ユービーアイソフトで作るPS3やXbox 360のゲームが少なくなりますし、携帯機での開発もかなり減っているので、完全に新世代機にシフトしなければいけない。それが大きなチャレンジの1つです。『ウォッチドッグス』のように、より深いレベルでの翻訳、ローカライズもやっていきたいし、オンライン周りももっと強化していきたい。オンラインに関しては、ユーザーさんにご迷惑をおかけすることが多いので申し訳ないのですが……。なので2015年は、直面しているチャレンジが多い年になると思います。

福井:AAA級のビッグタイトルが複数出てくるのは間違いないので、それをお客様に届けるのが私たちの仕事なのかというと、それだけではありません。今まではなかなか手が回らなかったんですが、発売後のサポートだとか、そういった部分まで社内でケアし続けられる環境を整えていきたいですね。

 2015年以降は息の長いタイトルが増えてくるので、買って長く遊んでいただいて、楽しかったと思ってもらえるようにしていきたいです。2014年に起きたいろんなことを糧にして、ユーザーのみなさんの期待を裏切らない施策を、日本の私たち自身でできるようになりたいと思っています。その意味で2015年は勉強の年です。

スティーヴ:2015年にも、2014年のように強いタイトルはあると私は思っています。『ディビジョン』は期待の高いタイトルですし、『Rainbow Six Siege』も、2014年のE3でかなりの注目を集めました。そのもっと先のタイトルも私は知っていますが、もちろんここで言うわけにはいきません。

 でも商品の力だけでは、我々にはどうにもならないことも多いので、ユービーアイソフト株式会社としてできることをどうやってうまくやっていくのかが、これからの大きな課題です。2014年にはいろいろと学ぶことが多かったので、1つ1つ改善していきたいですね。

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