2013年6月24日(月)
6月17日より、電撃オンラインのスタッフが勝手気ままに好きな記事を書いていく企画“ほぼ毎日特集”が始まりました。本当は僕が企画のトップバッターだったのですが、虎の子の企画がボツになり、なんと連載6回目での登場となってしまいました。
第6回でお届けするのは、PC用同人ゲーム『ファタモルガーナの館(The house in Fata morgana)』の紹介です。
普段は同人ゲームを紹介する機会がないのですが、“なんでも好きなことをやっていい”という「ん? 今なんて言った?」な企画趣旨を聞いてですね、これは絶対に『ファタモルガーナの館』を紹介するしかないだろうと思い立ったわけです!
▲『ファタモルガーナの館』のトップ画面。プレイの進行度合いによって、このイラストへの印象が変化するでしょう。 |
本作は、2012年に同人ゲームサークル・Novectacle(ノベクタクル)が頒布した、西洋浪漫サスペンスホラーADVです。ストーリー、イラスト、音楽のレベルが総じて高い作品で、個人的には2012年のADVの中でトップ3に入るおもしろさだと思っています。
ADVファンはもちろんのこと、普段ADVをプレイしない人にも自信を持ってオススメできる作品なので、知らなかった人はぜひここで覚えていってほしいと思います。
『ファタモルガーナの館』の舞台となるのは、そのタイトルの通り“館”。“その館に住む者は、必ず不幸になる”と言われている呪われた館で、“あなた”が目覚めたところから物語が始まります。
すべての記憶をなくしていた“あなた”は、目の前に現れた“あなた”を「旦那さま」と慕う館の“女中”に連れられ、“館で起きた様々な悲劇の記憶”を見ていくことになります。そこに、“あなた”の痕跡があるかもしれないと……。
▲“女中”の手を離さずに、館に刻まれた悲劇を体験していきましょう! |
“あなた”が“女中”とともに見ることになるのは、“1603年の館に住む仲睦まじい兄妹”、“1707年の荒廃した館に住み着いた獣”、“1869年の館に住む資産家の青年”、そして“自らを「呪われている」と告げる青年と、魔女の烙印を押された白い髪の娘が住む1099年”、この4つの時代に登場する人物に巻き起こった悲劇です。
▲1603年(第1章) | ▲1707年(第2章) |
▲1869年(第3章) | ▲1099年(第4章) |
4つの時代と“あなた”にはどのようなかかわりがあるのか? どの時代にも必ず登場する“女中”と“白い髪の娘”は何者なのか?
キャッチーな悲劇と次第に明らかとなっていく登場人物の業、散りばめられた数々の伏線、『久遠の絆』のような“輪廻転生”を連想させる展開によって、プレイヤーはゲームの世界へと次第に引き込まれていきます。
▲1603年の“白い髪の娘”は新入りの女中として館で働くことに。 | ▲1707年の“白い髪の娘”は、館に住み着いた恐ろしい獣と出会う。 | ▲1869年では“資産家の青年の妻”という形で館とかかわる。 |
率直な感想を言うと、最初の3つの時代を読んだ際には「オムニバス形式のよくある悲劇モノかなぁ」という印象でした。正直、目新しい部分もあまりなかったので、ここでプレイを止めてしまおうかと何度か考えたほど……。
しかし、4つ目の1099年では物語の大筋を予想できるような情報が登場して少し楽しくなり、「なるほどね」とドヤ顔で今後の物語と結末の予想をしていたわけですが……5章から見事にひっくり返されました! 1~4章はプロローグにすぎなかったというわけです。
西洋浪漫サスペンスホラーとジャンルが銘打たれていますが、5章からは“ラブストーリー”や“ヒューマンドラマ”といった印象が強く、ゲームへの認識がガラリと変わってしまいます。
5章以降は完全に登場人物と物語の虜になり、ただただ、登場人物たちにどのような未来が待っているのかが気になります。こうなってしまってはもうプレイを止めることはできず、どんどんと先へと読み進め、エンディングまで一気にプレイしてしまいました。
物語全体の構成もさることながら、これまでのすべてがかかわってくる最終章近辺の展開は見事のひと言です。
このゲームは、物語とキャラクターへの“認識の変化”が章単位で発生します。小さなところだと「いい人だと思っていたけど実は……」などですが、物語全体を通して見た時にも認識に変化が現れます。
前述した通り、僕の場合は西洋浪漫サスペンスホラー→ラブストーリー→ヒューマンドラマとゲームへの認識が変わっていったわけですが、エンディングまで見ると“いろいろな要素が詰め込まれた濃密なエンターテイメント作品”という認識へとまとまりました。
認識の変化……または、“ギャップ萌え”とも表現できるかもしれませんね(笑)。それはキャラクター描写が顕著で、“陰鬱な物語”という印象しかなかった序盤から一転、意外とコミカルな発言でプレイヤーを和ませてくれる主人公とヒロイン、そしてもう1人のヒロインはまさにギャップ萌えの塊!
すべてを終えた今となっては、この3人が好きで好きでしょうがありません。○○○○○ちゃんは俺の嫁(※ネタバレのため伏字)とか思ってしまうほどに。
システムは、時折出現する選択肢を選ぶことで、8つのエンディング(バッド7つ、トゥルー1つ)に到達するという非常にオーソドックスなもの。しかし、選択肢を出すタイミングや内容がとてもうまく、プレイヤーの物語への没入感を高めてくれます。
中には仕掛けのある選択肢もあって、それが演出として非常にうまく機能していると感じました。結末は1つではありますが、途中の選択肢はおためごかしで入れられたものではなく、そのシーンでプレイヤーがどのような感情を抱くかがよくわかっていて、そこをうまく突いてくるものになっている。
選択肢という原始的なシステムを使って、うまく物語とプレイヤーの感情の変化を演出していると感じます。
ちなみに、とある選択肢で「何かあるんじゃないか」と思い、10分ほどずーーーっとその選択肢を眺めたり、何かがフラグになっているんじゃないかと再プレイをしてみたりしました(笑)。そういった個別の体験が提供されていた点も、高評価のポイントでした。
今回紹介した『ファタモルガーナの館』もそうですが、同人ゲーム出身のPCゲーム『ChuSinGura46+1 ‐忠臣蔵46+1‐』が2013年で一番好きなゲームだったりと、毎年すごいと感じる同人ゲームが登場します。それを発掘するのがまた楽しかったり……(笑)。
コンシューマしかプレイしない人がもしいたら、ぜひこの作品をきっかけに同人ゲームにも目を向けていただければなと思います。『ファタモルガーナの館』、名作です。超オススメ!
ちなみに、本作はインディーズゲーム配信サイト・PLAYISMでダウンロード配信されています。DL版の収益は全額英語版の開発費に使われるとのことですので、『ファタモルガーナの館』の今後の展開にも注目したいです。
・中盤から終盤にかけてのストーリー構成
・物語のまとめ方
・世界観にマッチした美しいグラフィック
・音楽(“観劇”をテーマに、多くのBGMにボーカルが付いている)
・魅力的なキャラクター
・選択肢の使い方
・2週目要素
・クリア後のオマケまでおもしろい
・序盤を乗り越えるまでが唯一の壁
・ボーカル付きの音楽が一部シーンで主張しすぎだと感じることも(物語に集中したい時)
■動画“『ファタモルガーナの館』プロモーション映像”
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