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2008年3月31日(月)

【蟲の居所】『蟲師』を制作したTENKYにギンコ参上!制作を手伝った意外な人とは?

 2005年10月にTVアニメが放送され、今年1月31日にはDS用ソフト『蟲師 ~天降る里~』が発売された人気コミック「蟲師」。TVアニメで主人公の“ギンコ”を演じた中野裕斗氏が、「蟲師」に携わった人を訪ねたり、「蟲師」にかかわったことをするコーナー「蟲の居所」の第4回目をお届けする。

題字・漆原友紀


 「蟲師」は、「月刊アフタヌーン」(講談社刊)で隔月連載中のコミック。本作を題材にしたTVアニメは、幅広い層の支持を獲得して、文化庁メディア芸術祭「日本のメディア芸術100選」アニメーション部門で6位入賞を果たした。また、マーベラスエンターテイメントから発売されているDS版『蟲師 ~天降る里~』は、「蟲師」の世界が100%再現されているのに加え、ゲームオリジナルのストーリーを楽しめることでも話題となった。

 第4回となる今回の「蟲の居所」は、『蟲師 ~天降る里~』の開発を行った、TENKYさんにお邪魔して、代表取締役の成田伸子さんと、ゲームデザイナーの手島大氏に、発売された今の心境や開発秘話などをうかがった。

東京都世田谷区にあるTENKY。さまざまなゲームを制作しているこの会社のドアを叩く音が。スタッフがドアを開けると……そこには白髪の男が立っていた。彼は何をしにここに来たのだろうか……。


中野氏:さて始まりました、「蟲の居所」。司会進行の“ギンコ”役の中野です。今回はゲームの開発を担当されたTENKYさんに来ています。

手島氏:“ギンコ”きた~~~!

成田さん:すごいですね。まさか“ギンコ”がうちにくるなんて。

中野氏:ゲーム制作お疲れさまでした。ゲームを作るにあたって一番難しかったことは何でしたか?

手島氏:僕らはゲーム屋で、ずっとゲームゲームしたゲームを目指して作ってきたわけですが、それが、マーベラスさんからこのタイトルをお聞きしたとき、「ゲームにはならないんじゃないかな」とすぐに思いました。かなり悩みましたよ。でも、打ち合わせでマーベラスの偉い方に「ゲームでなくてもいいんです!」と言われて、初めて「だったら作れるかも?」と思いました。

中野氏:「蟲師」の世界を体感するゲームにした理由は何ですか?

手島氏:原作では各話の主人公が必ずその集落にいる誰かで、“ギンコ”は「外から来る人」だったんです。だからゲームも当然それに合わせるべきだろうと思いました。監督も同じ意見で、ここはすんなり決まりました。ファンは、“ギンコ”になりたいのではなく、“ギンコ”に会いたいんだろうと。

中野氏:発売後、今はどういう心境でしょうか。

手島氏:今ですか? 今はどうなんだろう。僕の中では、いまだに最初の頃の悩みは引きずっています。発売後のユーザーさんの感想を聞いても悩んでいる感じですね。もちろん蟲師ファンの人には「おもしろい」と言ってもらえていてそれはうれしいんですが、一般的なゲームユーザーの一部から厳しい意見をもらうと、そういう人たちには、受け入れてもらえなかったのかなぁ……という思いはありますね。

中野氏:ズバリ聞いてしまいますが、ゲームの仕上がりには満足していますか?

手島氏:最初に長濱監督に「こういうことをやりたいね」というのを語っていただいた時に、おもしろいって感じるアイディアがいっぱいあったんですよ。違うハードだったらできることが、DSにするとなると諦めなければいけないところもあった。ただ、限られたハードで限りある制作期間の中で、できる限りのことを叶えようとは頑張りました。今回、ゲーマー向けには作らなかったので、受け入れてくれる人もいれば、否定的な意見が出るのもわかっていました。だからユーザーさんからの反応は予想通りでしたね。まず第1の目標は、「ファンによろこんでいただく」だったので、その辺りはクリアしていると思います。

中野氏:そうですね。僕もそう思います。

手島氏:僕としては、もっとやりたかったことはあるんですよ。でもいろいろな制限があってこそぎ落としたところがあるんで、「ゲーム的な遊びの深さが足りない」という意見を聞くと、そこに関しては申し訳なかったと思います。

成田さん:「このゲームのターゲットは誰なの?」という声は、当時現場でも上がったんですよ。他にも、「こうすればゲームとしてもっと練りこめますよ」とか。でもそれはあえてしないのがこのゲームの方針だと、現場で手島が強く言っていましたね。手島の頭の中には、原作の漆原先生と長濱監督に遊んでいただいて満足していただけたら、目的は達したという思いがあったんです。そうすればファンにも喜んでいただけるだろうと。イメージしていたユーザーはそこなんです。それを目標としていたので、いつものゲーム制作とは全く違う手法だったと思います。

中野氏:なるほど。制作のエピソードとして、興味深い話ですね。

お話をうかがったのは、TENKYのゲームデザイナー・手島氏と、代表取締役の成田さん。両名とも元々「蟲師」を知っていたため、ゲーム制作に対して思い入れがある様子であった。


中野氏:さて、次の質問です。ゲームもしくはアニメのキャラクターで、お気に入りのキャラは誰ですか? 印象に残っている話でもかまいません。

手島氏:“ヤクノ”はカッコよかったですよね。社内の女性のデザイナーとかにもウケがよかったのを覚えています。

成田さん:最初の名前は、“名もなき蟲師”だったんですよね。“ヤクノ”は渋くてカッコよかったなあ……ゾクゾクしましたよ。

手島氏:アニメの方だと、子どもの役がよかったと思います。子どもが役者として声を当てているじゃないですか。子どもの芝居が好きなんで、印象深いですね。

成田さん:私はアニメだと“ワタヒコ”の出てきた「綿胞子」という話が強烈に印象に残っていますね。あれは、女性の生理的なものだと思うんですよ。たぶん女性だったら、産むことへの怖さと愛情が混じった、ドロドロとした感情がわかる人が多いんではないかと。そういえば高校生くらいの時に、“ワタヒコ”のような何かを産む夢を見たことがあります。両手の中にピンクのくにゃっとしたものがあってすごくリアルな感触でしたねえ。“ワタヒコ”は、今どうしているのかなあ……。

中野氏:きっと眠っちゃったんではないかと(笑)。“ワタヒコ”の回も、現場ではいろいろありましたが、そこらへんは流して、では続きまして、次の質問です。今だから言える制作中の秘話などを教えてください。

成田さん:……言えないことが多いです(苦笑)。

手島氏:秘話というよりは苦労話に近くなるんですが、長濱監督を含めて、現場のスタッフは定期的にミーティングをしていたんですね。それが半年くらいマメにやっていたんですが、1回たりとも予定時間に始まったことがないんですよね(一同爆笑)。1回もですよ! みんな遅刻しまくりで。僕らは遅刻せずにマーベラスさんにうかがうんですが、10分経過して、「監督来ないよね?」って話し、20分経った頃におかしいなと思って電話すると「あれ? 今日何かあったっけ?」って監督が言うんですよ、シレっと。大体監督が遅れますね。でも、音声収録の日だったかな? 14:00に集合だったんですが、11:00くらいに監督が現地入りしていて「なんで、皆来てないの?」って(笑)。

中野氏:監督は、スケジュールの管理をする担当の方がいないんですよ。当時からマネージャーをつけようって、皆で話していましたね。アニメを制作した時は、制作会社であるアートランドの吉田彩ちゃんが、ずーっと付きっきりでしたからね。

手島氏:ゲーム化するにあたって、アイディアから背景、何から何まで、世界観にマッチしているかそうじゃないかで判断するんですよ。だから「「蟲師」ぽいなあ」って判断されたら採用されますし、「なんか「蟲師」ぽくないなあ」と思ったら使われないっていうのがありましたね。だから打ち合わせの時間から、「蟲師」っぽくなきゃいけないのかなと思いました(笑)。日が昇ったら、現地に向かって歩き出して、皆がついたら打ち合わせが始まる。「そういう方針があるのか?」ってくらいに、打ち合わせはきっちり始まりませんでした。

成田さん:私たちは時間に追われていたんですが、他の皆さんは自由でしたね。打ち合わせが1日ずれたってこともありましたねえ(苦笑)。「ゴメン、今日は他の仕事で抜けられない~~」って(笑)。まあそれをネタにしつつ、残されたメンバーで雑談しながら楽しくやれたのが、不思議でしたねえ。

手島氏:監督がいないといえば、こんなこともありました。ゲーム中に出てくる絵は、キャラクターから背景まですべてに監督のチェックが入っているんですよ。ところが、監督がアメリカにイベントで行ってしまって、作業が止まってしまったことがありましたね。……こう思い返すと、よくできあがりましたねえ(一同爆笑)。

成田さん:制作秘話というよりは、監督秘話ですね。監督に始まり、監督に尽きるという。存在自体がおもしろい方ですよね。

中野氏:キャラクターデザインの馬越さんの言葉を思い出しました。監督に向かって「蟲師が好きなのは、あんただけで十分なんだ!」って言ったんですよね。

成田氏:そういう意味でも、監督がいたからこそできた作品なんでしょうねえ。

手島氏:ようはあれですね、「長濱監督に誰かマネージャーを付けろ!」と。そういうことですね(一同爆笑)。

中野氏:俺は、「奥さんにお願いしてみては?」と思うんですけどね(笑)。

成田さん:そういえば今回の開発は、実は長濱監督の奥さんにずいぶん助けられたんですよ。途中のバージョンを渡したら、奥さんがゲームをクリアしてくれたんですよ。そして「おもしろかった」と言ってくださったんですね。

手島氏:監督と現場で意識の違いが出てしまい、どうしても判断に迷うことがあるんですよ。そこで奥さんの意見が参考になったことがありましたね。着地点を決めたのは、奥さんの一声でした(一同笑)。

中野氏:奥さんにはちゃんと菓子折りを持っていきましたか?(一同爆笑) では、目の前の“ギンコ”に何か一言お願いします。



手島氏:どうもお疲れ様でした。すみませんが、社内は禁煙なんで、「蟲煙草」を吸われるんであれば、下の駐輪場に行っていただければと思います。

中野氏:(“ギンコ”の声で)ここは、「狩房文庫」か? 貴重な書物ばかりがあるのか?(一同笑)。

手島氏:でもここに蟲はいないと思うので、“ギンコ”さんに寄り付くことはないかと(笑)。

成田さん:お願いしたいことがあるんです。本作品の3DCGを担当したスタッフなんですが、左目の奥が痛くなったので病院で見てもらったんですが原因がわからないんですよ。皆で「蟲だ! 蟲のせいだ!」って話しているんですが、ちょっと見てもらえませんか?

中野氏:今、手島くんが「蟲はいない」って言ったばかりですけどねえ(苦笑)。では、この仕事が終わったら見てみましょうか。では最後に、この企画をご覧になる方々へ、メッセージをお願いします。

手島氏:ゲームを遊んでくれた人は、絶賛の声でも非難の声でもいいので、感想を送っていただけるとありがたいですね。作った僕らも、悩んで悩みぬいてできた作品なので。モヤモヤっとした気持ちが晴れるか否かは、そういう声を聞くことにかかっていると思うので、ぜひお願いします。

成田さん:イベントの時に長濱監督も話していましたが、コミックが並んでいて、その横にアニメのDVDがあって、次にゲーム!っていう位置にはまれたと私は思っています。オリジナルのストーリーを作れたことに自信を持っています。皆さんの声があれば次へつながりますので、次の作品を作るためにも、さまざまなご意見をマーベラスさん側にお伝えいただければと思います。

手島氏:特に石綿プロデューサーまで。次回作を作る時に苦労するのは、石綿さんなんで(一同笑)。

中野氏:彼はまだまだ、若いから大丈夫ですよ! 本日はありがとうございました。そうだっ! “ギンコ”がゲーム制作の現場を見たいとのことなので、見学させていただいてもいいですか?


 ということで、TENKYさんにインタビューを行った後、ゲーム制作現場にお邪魔させていただいた。

こちらが開発中の画面。“ギンコ”の口元に「蟲煙草」があるのも確認できる。

実際に動いているモーションを見せてもらうことに。DSの画面では見えにくいが、かなり細かく動いているのを見てとれた。“ギンコ”もすっかりご満悦!?



 突撃取材を続ける“ギンコ”と中野氏。次はどこに向かうのか? 「蟲師」にかかわったことのある人は、覚悟しておこう。

中野裕斗氏近況
 温かくなってきました。これからだんだん春を迎えるんでしょうね。
 ある「探偵事務所」に子どもが来て、母親を探すというショートムービーを年末に撮影しました。詳しいことはまだお知らせできませんが、決まり次第お伝えできればと思っています。


(C)漆原友紀/講談社・「蟲師」製作委員会
(C)2008 Marvelous Entertainment Inc.

データ

▼『蟲師 ~天降る里~』
■メーカー:マーベラスエンターテイメント
■対応機種:DS
■ジャンル:SLG
■発売日:発売中(2008年1月31日)
■価格:5,040円(税込)

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▼「蟲師 二十六譚 DVD Complete BOX」
■発売元:マーベラスエンターテイメント
■販売元:エイベックス・マーケティング
■発売日:発売中(2008年3月28日)
■価格:29,400円(税込)

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■関連サイト
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TENKY
TVアニメ「蟲師」公式サイト
『蟲師 ~天降る里~』公式サイト
マーベラスエンターテイメント