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2008年3月17日(月)

【ゲーム業界リポートPart5】トップランナー編「ゲームはECの強みに合っている」

ゲーム業界を多角的に分析する連載企画。後半2回目のテーマは、いまやゲーム流通の大きな柱となったオンラインショッピングサイト。今回は大手オンラインショッピングサイト・楽天ブックスの岡本真悟さんと伊藤大二郎さんにゲーム販売について聞いてみた。
 

岡本真悟(上)
伊藤大二郎(下)
■ゲームソフトは、パッケージメディアでいえばCDやDVDの売れ方に近い。

 楽天ブックスは、2001年ごろにスタートしたオンラインショッピングサイトだ。スタート当初は書籍の取り扱いのみだったが、2006年ごろからCDとDVDの取り扱いをスタートさせ、ゲームは2007年7月から取り扱いを始めた。書籍、CD&DVD、ゲームの順番になったのは商材としての扱いやすさと世の中的なニーズを考えて決められたから。

「まず取り次ぎ大手の日販と協力して書籍をスタートさせました。そこから書籍販売と相乗効果が狙える商材としてDVDとCDが挙がった。さらにパッケージメディアを総合的に扱おうということになり、ゲームの取り扱いを加えました。現在は、雑誌販売もスタートさせています。これでエンタメ系のメディアがすべて揃い、パッケージ販売中心の店舗さんとも遜色なくなったと思っています(楽天ブックス・岡本真悟さん)」

 楽天ブックスのゲームを担当している伊藤大二郎さんは、実際に担当になってみて、自分の抱いていたゲームのイメージと世の中のギャップに驚いたと語る。

「担当になってまだ浅いですが、ゲームといえばオタク系という印象が強かったのですが、今はファミリー向けのゲームが強いですね。特に『Wii Fit』や教育系ソフトは、これまでのゲームのイメージになかったタイプのソフトですね。僕の小さいころは、ゲームはやりすぎないように怒られたものですが、今はお母さんが子どものために買ってあげるようなものになっているといった印象です。そのあたりはゲーム業界の今の状況を実感させられました(楽天ブックス・伊藤大二郎さん)」

 ゲームの取り扱いから約10カ月がたったが、現在はWiiとニンテンドーDSの取り扱いのみ。だが、年末商戦での手ごたえもあり、今後は他機種の取り扱いも視野に入れた展開を考えている。ゲームについては、先行して扱っていたCDやDVDのユーザーによる購買を想定。マーケティング面では、楽天の持つ楽天市場などの情報も社内にあり、ある程度の予想はつけていた。

「実際に扱ってみると、書籍よりもCDやDVDの売れ方に似ています。任天堂の商品は好調でしたし、楽天ブックスのユーザーとも相性がいいだろうという判断はありました。ゲームを購入されている層も、うちに関しては、ゲームでも女性ユーザーの占める割合が高い傾向は出ています。雑誌と似ていますが、20~30代が多いですね。売れ筋も実際に生活に密着したソフトや手軽なライトなゲームの動きがいいです。最初は苦労するかなと思ったら、意外と早くから顧客が付いてきた感触はあります(伊藤さん)」

■長く売れる任天堂タイトルはネット販売とも相性がいい

 楽天ブックスでは、ゲームハード購入者へ一緒に買うソフトの情報を紹介したり、スポーツという切り口で『パワプロ』シリーズや『Wii Sports』などを紹介し、ピンポイントに響くような特集コラムをサイト内に掲載している。特集によっては反響も大きい。

「特集については『Wii Fit』が発売された時は健康関係、春には入学・入園用に紹介したタイムリーな企画は反応がいいです。店舗じゃないので、扱っている商品すべてがお客様の目に入ってくるものじゃない。その中でささりやすい商品をピックアップすることができればと思ってます。他の商材とも連携した企画もやっていて、『脳トレ』関連ではCDや書籍などメディアミックスで積極的にやりました。ゲームのユーザーと一般層の境界がなくなりつつあると言われてますが、これまでゲームユーザーは、欲しいものを探していました。でも今後は映画やCDなどのように、広いテーマでこちらから提案できるタイトルが増えてほしいですね(岡本さん)」

 楽天ブックスのメインのユーザー層がライトだからこそ、他メディアとの連動などの展開がカギを握っている。任天堂のタイトルは他メーカーのソフトに比べて息が長い。商品の関連付けや口コミで売れていくオンラインショッピングサイトとも相性がいいのだろう。

「きっちり長く売れているソフトが思ったよりもあったので、そこは楽天の仕組みにあった売れ方をしています。ゲームは予約受注が取れ、オーダーをかけるまえに本数が読めるので、そういった意味ではECの強みに合っていますね。書籍も女性向けで実用的なものが売れたりしてますが、ゲームでも家計簿やお勉強ソフトは上位にきます。そこは一般的なゲームのチャートと違うと思います。逆に言えば、本来売れるべきゲームを売り切れてないという面があるかもしれませんが、新作がない時でもお勉強ソフトはずっと上位に上がってきています。楽天ブックスとしては、エンタメコンテンツの客層はすべて取り扱っていく方向性のひとつとしてゲームを位置づけていますが、そういった流れによって大きな戦力になりつつあります(岡本さん)」

■アイテム数が少ないため、特定のタイトルがゲーム全体の売り上げに影響をおよぼす

 一方でゲームには、他のパッケージメディアや書籍と違う弱点が存在すると指摘する。
「商材の種類の少なさは大きな特徴です。例えば書籍なら80万件以上、DVDやCDでもかなりの数を取り揃えています。ゲームは、WiiとDSしか扱っていないというのもありますが、400~500タイトルしかないですから。例えばDVDの新作は、初回分の入荷が少なくて売り逃しがあっても、他の商品が売れているのでDVD全体の売り上げに関しては限定的な影響にしかならない。でもゲームの場合は、ひとつの商材がないことから、お客様に商品を提供できないご不便をおかけするだけでなく、売り上げ全体に大きく影響します(岡本さん)」

 オンラインショッピングサイトなどのビジネスモデルでは、予約受注が大きい売り上げになるが、本数を確保できずに予約時点で発注分がなくなってしまうこともあるそうだ。扱うタイトルが少ないので、売れ筋ソフトを売り逃すと大きな損失になってしまう。
 一方、次世代ゲーム機になればダウンロードコンテンツの販売なども視野に入ってくる。小売店やパッケージ販売をメインとする流通とダウンロードビジネスについては、今後の大きな課題になるのは間違いない。

「うちの部署の中にダウンロードや配信系の物を扱っている部署もあるのですが、ダウンロード販売などが活発化してもリアルの店舗さんよりは対応はしていけると思います。メーカーのサイトからからダウンロードを提供すれば終わりという考え方はあると思いますが、僕らにも約3,600万人の楽天会員を持っているという強みがあります。例えばオンライン登録や課金システムなどユーザーにとっても面倒くさい部分を短縮できます。個人的見解も含まれますが、メーカーと楽天ブックスでインターネットを活用したオリジナルの取り組みをやっていきましょうというレベルまでいければ双方にメリットはあると思います」

 現在は実績作りの段階と岡本さんは語るが、ゲーム業界に対しての期待も大きい。

「WiiやDSは新しいユーザーの動きを作ったと思いますが、こういうケースがもっとゲーム業界から出てくれば、販売店として厚みをもってやっていきたい。ゲームの中でもロングテールの動きがあって、それは棚に並べる店舗販売では拾っていけないものだと思うんです。それがネットだと全部並べられるから拾っていけるというのはあります。PS2の全盛期のように、メガヒット作を中心にドーンと売っていたころと比較すれば、オンラインショッピングサイトは展開しやすいと思います」


製作協力:アミューズメントメディア総合学院

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