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2008年3月14日(金)

【OGC2008】MMO市場はまだ成長する――コーエー松原社長の基調講演をレポート

 本日、ブロードバンド推進協議会が主催する「オンラインゲーム&コミュニティサービス カンファレンス 2008(略称:OGC 2008)」が開催されている。その中で、基調講演「オンラインゲーム CROSS BORDER」が行われた。

 「OGC 2008」は、オンラインゲームを主軸に多様化するコミュニティサービスを一望し、今後それらのコンテンツが複合しながら新しいサービスを形成していく姿を問うカンファレンスとして開催され、全21セッションが催される。なお、基調講演「オンラインゲーム CROSS BORDER」は、コーエーの代表取締役執行役員社長・COOの松原健二氏が登壇して行われた。

 まず松原氏は、日本、北米、欧州におけるプラットフォーム(PS3、Xbox 360、Wii、DS、PSP)の販売台数データを挙げ、WiiとDS、PSPは地域による販売台数の差が少なく、非常に多くの台数が販売されていることから、これら3ハードはプラットフォームとしてすでに普及したという見方を示した。しかしPS3とXbox 360については、日本での販売台数が伸び悩んでいる他、欧米と比べて大きく差が開いているなど、「新ハードの販売台数が、欧米とこれほど差が開いているのは異常な事態」と語った。さらに、家庭用ゲームソフト市場規模が、北米が7,000億円以上、欧州が5,000億円以上なのに対し、日本は4,000億円以下と、市場規模においても開きが出ていることを説明。これを受けて、「家庭用ゲーム機でゲームを遊ぶことが好まれる日本において、オンラインゲームが多くのプレイヤーに遊ばれるためには、オンライン対応の家庭用ゲーム機が普及することが必要となるが、今はまだそういった状態にはない」と、オンラインゲームが日本に広く受け入れられるには難しい状況にあることを語った。

 続いてオンラインゲーム市場規模が、日本では2005年~2006年にかけて40%成長していることから、100%以上の成長をみせた韓国ほどではないが、確実に成長していると話した。ただし日本では、オンラインゲーム市場のデータに関して取りきれてない部分があるのではないかと問題提起している。また、日本のオンラインゲーム市場が数字の上で成長した理由については、数年前から期待されていた「次世代機コンソールなど環境整備による成長」、「新たなビジネスモデル、サービスモデルが出現し、ユーザー層を拡大する」、「国内デベロッパーの成長・参入」といった面が、ある程度達成された結果だろうという見解を示していた。特にビジネスモデルについては、アイテム課金や従量制など特定のコンテンツにだけ課金するペイパービューモデルが大きく広まってきた一方、定額制の課金もビジネスとして確立されており、二極化されつつも、それらのハイブリッドなど新しいモデルも出てきているとのことだ。ただしサービスモデルについては、仮想空間内などでのビジネスなどが今はまだ確立していない現状であるとした。

 また、「オンラインゲームにまだ成長の見込みがある」と語る松原氏だが、「数年前からあった漠然とした期待が100%達成されたかというと、そうではない」と話している。それは、オンラインゲームが、「mixi」や「ニコニコ動画」、「モバゲー」などのオンラインサービスに登録者の人数という形において大きく追い抜かされてしまったからだという。これらのオンラインサービスのように、短期間で数百万人単位で登録者数をのばすオンランゲームは存在せず、「オンランゲームが他のサービスとどのように連動していくのかを考えなければならない時期」だと語った。さらに松原氏は、オンラインゲームがコンテンツの対価をユーザーから得るのではなく、広告主から得るような地上波TVモデルを向かっているのではないかという危惧を示した。しかし松原氏は、「ビジネスモデルはユーザーの選択によるものであり、お金を払っても楽しみたいというコンテンツがユーザーのニーズにある以上は、必ずしも地上波TVモデルだけではなく、その他のビジネスモデルも成立するだろう」とも話している。

 そういったサービスの多様化により、「コミュニティを活性化させるようなサービスに新しいモデルが生まれ、今後も競争は続くだろう」と話した松原氏は、新しいサービスの1つとして「心地よいおせっかいサービス」をあげた。これは、1つのIDでさまざまなサービスを利用できる「オープンID」を発展させたような形であるとのこと。ユーザーがプレイ、滞在した履歴を基に個々のニーズを分析すれば、パーソナライズされたサービスをユーザーに提案し、サービスとサービスをつなぐことができるのではないかという。

 次に、オンラインゲームの具体的な例としてコーエーのかかわっているコンテンツの紹介がされた。松原氏自身も昨年までプロデューサーとしてかかわり、サービスから5年迎えたPC用MMORPG『信長の野望 Online』は、国内サービスにおいて、登録者数30万人、課金5.5万人を数えているという。PC用MMORPG『大航海時代 Online』とPC用MMORPG『三國志 Online』についてもそれぞれ、登録者数22.5万人と課金2.7万人、登録者数12.5万人と課金2万人のユーザーを得ているとのことだ。
 中でもKoei Entertainment Singapore Pte.Ltd(シンガポール)にて開発された『三國志 Online』は、ピーク時には現地スタッフ60人、日本スタッフ10人を動員し3年半をかけて正式サービスに至ったとのことで、開発期間にビジネスモデルの主流がアイテム課金に移ったことなどもあり、「正式サービスにはかなりの不安をともなった」という松原氏。しかしその実績により、「MMOの市場はまだ伸びると確信した。この市場にはまだまだ魅力がある」と語った。

 最後に質疑応答が行われ、「日本だけでなく世界中でオンライン市場が難しい状況に入りつつある現状において、オンラインゲームを産業としてどうするべきか?」という質問がされた。これに対し松原氏は、「まずインターネットの持つ問題点を解消していくのが課題です。オンラインゲームやオンラインサービスは、まだ完全に安心して利用できるサービスとして広まっていません。コンテンツ事業者は、サービスの魅力だけを伝えるだけでなく、その健全性についても伝えていく必要がある思います。コーエーとして、産業に貢献できることはコンテンツやサービスを提供していくことですが、それを安心して楽しめるようにサービスしています。ですが、その安全性・健全性については利用者にしか伝わらないものなので、研究機関との連動など、さまざまなアプローチから安全性を広めていきたいと思います」と回答。大勢の聴講者の拍手によって講演は終了した。

昨年までオンラインゲームに直接かかわっていたという松原健二氏は、「現在は立場の上から、オンラインゲームを俯瞰できるようになったと思います」と、オンラインゲームに対する視野の広さをうかがわせた。

数年前にはさまざまな漠然とした期待があったが、まだ完全にそれを達成したとは言いがたい現状のようだ。これからのオンラインゲームの動向が気になる。

松原氏が提案する「心地よいおせっかいサービス」。サービスの形が、より個人を重視したものに変わりつつある。

『三國志 Online』を開発した当時は、オンラインゲームが大きく変わっていった時期ということもあり、開発中からさまざまな不安があったという。しかし2月29日の正式サービスから、すでに2万人が課金を行っている。


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