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2008年3月10日(月)

【ゲーム業界リポートPart4】トップランナー編「本気の人をゲーム業界に送り出す」

クリエイターを目指す若者たちに焦点を当てた前半とは趣向を変え、後半は育成、流通、マーケティングなど、ゲーム業界を支えるさまざまな現場をクローズアップしていく。第4回は、育成の現場であるゲームスクールから見たゲーム業界の変遷を解説する。
 

小宮英武
1963年12月6日生まれ
東京都出身
 1999年6月より、専門学校「アミューズメントメディア総合学院(以下、AMG)」で学院のスタッフとして担任・講師・就職指導をする小宮英武さんは、かつて大手ゲームメーカーでプロデューサーなどを担当、ゲーム製作の現場で活躍していた。転機となったのは、当時の会社の状況が買収などで大きく変化したこと。そのころに知り合ったAMGから「ゲーム業界がわかっている人間が必要」だと誘われて教育スタッフになり、現在に至る。小宮さんが教育スタッフになった当時は、PS2のスペックなどが発表されたばかりのころで、まさにゲームバブルのころ。例えば競馬シミュレーションの『ダービースタリオン』が200万本売れるなどミリオンセラーがゴロゴロあった、ノリノリの時期。ただ、すでにそのころから売れない商品も顕著になりゲームバブルの崩壊は始まっていた。そこから10年でゲーム業界は大きな転換期を迎えている。

「この10年で、ゲーム業界全体も変わったし、ゲームスクール自身も変わったと思います。教育スタッフになった最初のころは、AMGにしてもゲーム業界を目指す人にとっても、単なるあこがれ程度・ゲームが好きなだけ、“ゲームのことが学べるならいいかな”という学生が多かったのは事実です。もちろん就職率も現在みたいに5年連続100%には、程遠いものでした。でも、優秀なゲームクリエイターが巣立ったのも事実。それならば、その先輩たちの学んだ姿を手本にし、甘い考えの学生に迎合するのではなく、本当にゲームクリエイターになりたい人をゲーム業界に送り出す教育をしよう。現場実践教育となる制作重視のカリキュラムを練り上げて、本格ゲームスクールとして存在し、実績を上げる事を目指しました」

 アミューズメントメディア総合学院は、その意味ではプロ仕様なゲームスクールだ。カリキュラム強化の成果もあり、就職の実績も上がった。それと相乗効果で、プロ志向が強い生徒も集まるようになった。現在のAMGの学生たちは、“ゲームクリエイターのプロ”として具体的なビジョンが見えている世代でもある。そんな彼らを待ち受けるゲームメーカーが求める技術のレベルは、どんどん高くなっている。例えばゲームバブルのころなら、ちょっとしたグラフィックが描けたり、ほんの少しでもプログラムができれば就職できる状況もあった。だが、今のグラッフィカーやプログラマーに求められるものは、新人の時から相当ハードになっている。また、プランナーにとっては、できることが増えた分だけ考えねばならぬ事も増え、天国でもあり地獄でもある。だから、そのニーズに対応するゲームスクールの存在意義も大きくなっている。

「ゲームスクールには、若くていい戦力をゲーム業界に送り込む使命があると思ってます。だからこそ、いろいろなコネクションを使って学院にゲーム関係者を呼び話をしてもらい、そういう人たちに「学生に迎合したね」と言われないような優秀なクリエイター候補生を送り込む。それが我々のゲーム業界の仲間への回答になればと思っています。一方で、高いレベルが要求されれば高いものを教えたいが、学校は2年間しかない。そのジレンマを常に感じてます。そうなってくると、どこまでゲームスクールが教えるか。企業のニーズという着地点は決めてありますが、どう教えていくかという過程は、常に考えないといけない。時代にあわせて知恵を絞る毎日ですね」

 今ゲーム業界は、次世代のゲーム機の登場などにより、30代後半~40代のクリエイターたちから若いクリエイターに世代交代が進もうとしている。そんな中、大手メーカーとゲームスクールなどが手を取り合って、教育を考える場もでき、ゲーム業界全体で人材育成に積極的に取り組んでいる。若い開発会社では、フットワークが軽いということもあってアグレッシブに共同で人材育成を考えている所も多い。それは以前のようなクリエイターの引き抜きや”できる人間”だけ使うという時代から変わっているからでもある。その意味では、若手育成はゲーム業界の今後の課題だ。

「ゲームメーカーが求めている人材の特徴には、モチベーションとコミュニケーションという2つがあります。それは昔から変わっていない部分。メーカー側も好き勝手なものを作ってヒットしようがしまいが、それでいいという会社はほとんどなくなった。今は、ちゃんとビジネスとしてゲームをとらえている会社ばかりです。ゲームが大きな産業になって、その中で生き残っていくには、メーカー、小売店といったところも、すごく頭を使わないといけない時代になった。その意味では、ゲームスクールの学生も10年前と同じではいけない。ウチの学生は自分の思いだけを押し付けるタイプが少なくなりましたね。ストーリーやシステムを考えていても、ゲームとして遊べることを考えるバランス感覚があります。モチベーションの出し方が下手な人間もいますが、そのあたりのバランス感覚とコミュニケーションのしかた、ゲーム制作の経験については、評価してもらっています」

 ゲームの多様化が進み、新しいゲーム機などの登場で高い技術力が求められるゲームクリエイターたち。その育成機関であるゲームスクールは、今後のゲーム作りがどうなっていくと考えているのだろう。

「短期的にはより高度な3Dグラフィックとオンライン機能が必須になるでしょう。あとは、携帯電話を含める持ち運びできる携帯性とゲームのリンク。いまや初代プレイステーションレベルのソフトは持ち運んで遊べます。一方で長期的にみれば、遊ばせたりや楽しませたりという面では、何も変わってないとも言えます。その意味では「”遊ぶこと”に必要な技術・考え方をきちんと教えていけばいい」いう普遍的な面もあります。ゲームが、人を楽しませるためのメディアである以上、インタラクティブゆえのおもしろさとおもてなしの精神が必要。ハードウェアやモチーフは変わっても、これは変わらず教えていかないといけないでしょうね。それにクリエイターの遺伝子を伝えていくのが、ゲームスクールの仕事だと思っています。その遺伝子を伝えるためには、上から目線じゃなく、学生たちの中に入って一緒にやっていく中で指導すべきでしょうね」

 学生の親もゲームを体験した世代が増えているが、かつてゲームを置いていたゲームセンターが不良の溜まり場と言われ、まだまだ悪いイメージを持つ人が多いことを考えると、ゲームのイメージを向上させる余地はある。以前に比べるとゲームへの理解は出てきているが、まだまだ足りない部分であり課題だ。それを変えていくには、若い力が必要。最後にゲームクリエイターを目指す人に向けてのメッセージを、小宮さんに語ってもらった。

「どんなことでもいいので、興味を持ったら直接触れてみてください。ネットの情報は楽だけど、直接触れて得た知識や常識で考えてみることで、問題解決の糸口が見つかる。自分が動くことで世の中が広がるし、それで得たものがひとつの形になればそれでいいと思います。僕自身も20代のころは、人を教える立場になるとは思っていなかった。ゲーム業界は、世界で戦えるメディアだし、まだ手付かずの部分も多くて入りやすい、すごく将来性のある産業です。よくゲーム業界で食っていけるかという相談を受けますが、ある一定の能力までは、根性とコミュニケーションで身につけられます。まあ、フェラーリに乗れるほどのゲームクリエイターになれるかというのは、運もありますが、ゲームを創ることで報酬を得るプロになることはできる。ゲームクリエイターは音楽や映画を作っている人たちと同じようにリスペクトされる存在になりつつあります。すでにゲームが特殊な娯楽ではなく、日常に必要なものに、そしてゲーム機がTVやオーデイオ機器、もっと言えば電子レンジや車と変わらない必需品な時代になっていると思います」


製作協力:アミューズメントメディア総合学院

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