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2008年1月29日(火)

「急がずに遊んでほしい」DS『蟲師』の魅力を長濱監督と石綿プロデューサーが語る

 マーベラスエンターテイメントから1月31日に発売されるDS用ソフト『蟲師 ~天降る里~』の開発スタッフに、インタビューを行った。

 『蟲師 ~天降る里~』は、「月刊アフタヌーン」(講談社刊)で隔月連載中の人気コミック「蟲師」を題材にしたシミュレーションゲーム。プレイヤーが新米の蟲師となり、「蟲」を採取・記録していくというゲームオリジナルのストーリーが展開する。本作の開発のために、原作ファンからも人気の高いTVアニメのスタッフが集結して、制作に協力している。

 今回、話をうかがったのは、TVアニメ「蟲師」の監督であり、『蟲師 ~天降る里~』の総監修を担当した長濱博史氏と、ゲーム制作プロデューサーの石綿春也氏。企画立ち上げの経緯から開発秘話まで、さまざまなことを語ってもらった。

■TVアニメが終了して時間が経った今、ゲーム化した訳とは?

――TVアニメの放送が終了して約2年になるのですが、今回ゲームの開発はどういったきっかけでスタートしたのでしょうか?

石綿氏:以前から「ゲームにしたい」という気持ちはあったのですが、決めかねているうちに時間が経ってしまいました。そして本格的に開発する段階になって、「蟲師」の世界をゲームにするのであれば、TVアニメの長濱監督にぜひ監修していただきたいということで、こちらから依頼したのが今回の長濵監督とタッグを組んだ経緯になります。

長濱氏:実はアニメをやっている時から「ゲームにならないんですかね?」と、マーベラスさんに言っていたんですよ(笑)。ただ、どんなゲームにするのがベストなのかをいろいろ思考していた状況でした。

石綿氏:けっこう前にアイディアとして2、3本あったのですが、最終的に今回発売されるソフトのような形に落ち着きました。でも、かなり思考錯誤しました。本当はもうちょっといろいろ盛り込む予定だったんですが、諸々の事情がありつつ……。

長濱氏:最初は、通信で蟲を飛ばしたり、交換したりとかありましたね。“化野(あだしの)”のところに言って、アイテムを売ったりとか。容量とか度外視して、やりたいことを詰めたっていう企画でした。当時はアニメにリンクしようと考えていたんですよ。ところがアニメに出てきたキャラクターたちは、それぞれがそれぞれの場所に生きているんです。そこにプレイヤーがかかわってくると、ともすれば原作を侵害しかねない。「これは危うい感じがするぞ」ということでボツにしました。結果、オリジナルの主人公を立てて、オリジナルのストーリーを展開していく形が形成されていきました。

――企画当初は、プレイヤーは“ギンコ”を操作する予定だったのですか? それとも今のようにオリジナルの主人公が存在していたのですか?

石綿氏:はじめから、“ギンコ”が主人公というのは考えていませんでした。それなら原作やアニメと同じになってしまい、ゲームでやる必要がなくなってしまうので。

長濱氏:原作が好きな人は、“ギンコ”になりたいわけではないと思うんですよ。“ギンコ”が見ているものを見たり、触れているものに自分も触りたいと思っているんじゃないかと。彼になれないことはわかっているんですよ。山の中に入ったら、ふらっとやってきた銀髪の髪の男がいて、彼とちょっと接点を持ってみたい。そんな体験をしたいんだろうと思っていたので、企画の当初から「“ギンコ”を動かして、蟲をバッサバッサと捕まえよう!」といった考えはなかったです。ただ、冗談では、シューティングモードで蟲を撃っていくゲームとか、そういうのを入れましょうと話したことはありました(笑)。でもそういうレベルですね。アニメと同じように、原作に基づいたものをゲームに落とし込んでいく。まあ、今回はTVアニメと違って原作がなかったので、一から作らなくてはいけなかったんですが。

石綿氏:オリジナルの話を作っていく上で、“ギンコ”に会えないのは寂しい。何らかの形で“ギンコ”と接点を持ちたいと考え、サポートする形でたまに登場するといった、現在のスタイルになりました。それくらいが原作に近いのかな?と。

長濱氏:原作ファンの方なら、ストーリーを進めていくと「なぜ自分がプレイヤーなのか」という点も、しっくりきてくれるんじゃないかと。まあ、原作において「“ギンコ”ではない主人公って誰なのか?」をちょっと思い描いてもらえれば、わかるとは思うんですけどね。


――サンプルのROMをお借りしてプレイしたのですが、ちょうど昨日ストーリー部分を終えました。終わった後、このゲームの中に「蟲師」のエピソードの1話が入っているように感じて、エンディングのスタッフロールを眺めながら感動しました。

石綿氏:それはすごくうれしいです。エンディングテーマは、アニメの音楽を担当した増田俊郎さんにお願いして作ってもらったんですが、それがまたいいんですよね。

長濱氏:このゲームオリジナルの曲ね。アニメの「蟲師」は各話にテーマ曲があって、全部で26個存在するんですね。そして今回、ゲームのタイトルが『蟲師 ~天降る里~』で、「天降る里」というテーマ曲、27個めにあたるエンディングが収録されている。そういう形で作れたのもラッキーだと思いますね。

石綿氏:エンディングまでを見れば、自分の生い立ちを理解でき、主人公である必然もわかると思います。あとは、蟲もたくさん出ています。全部捕まえようとすると、後半は相当大変だと思いますが(笑)。

長濱氏:蟲は山ほどいますからね(笑)。全部の蟲をチェックしましたよ。スケッチして、横に動きの注釈を書いて。

石綿氏:大変なことをお願いしてすみませんでした。一覧にしてお願いしたんですが、オリジナルの蟲も多いので、相当苦労されていましたね。途中からは、何かがおりてきたような感じで、描いていただきました。

長濱氏:イタコみたいな、そういう作業でしたね。ストーリーもそうなんですが、理屈で考えてとかじゃないんですよ。「蟲師」について考えている時って、頭の中で“ギンコ”が何かを言っているんですよ。だから、それを口で話して、周りの人に記載してもらうとかよくありました。こういう風にいうと危ない人みたいですが(笑)。そのセリフを元に皆でストーリーを考えていって、シナリオができてくるっていう感じでしたね。ありがたかったのは、そうやって苦労してできたストーリーや設定を、原作の漆原先生と担当編集さんに見てもらった時に「っぽいなあ~、「蟲師」っぽいよね」とおっしゃってくれたことです。あれは、最大の褒め言葉だと思いました。

――確かに「蟲師」っぽいですね。最初、主人公の名前を登録する際やゲームのチュートリアル部分では、「これは「蟲師」なのか?」と違和感があったんですが、エンディングを見終わった時には「蟲師」らしい世界観だったなと感じました。

長濱氏:それはありがたいですね。スタッフが強力して制作した1つの結果だと思います。



■ゲームの利便性よりも、重要視したのは「蟲師」の世界感

――制作する上で、とくにこだわった点などありますか?

長濱氏:今回ゲームを制作する上で、ただの道、どこかに行く途中の通過点になるだけのマップをなるべく作りたくなかったんですよ。美術さんにも協力してもらって、キレイに書いてもらったのもあるんですが、主人公が立ち止まって絵になるということを心懸けました。夕暮れとかになんとなくそこに行って、ぼぉーと見てみたりとかしてもらえたらいいですね。環境音もキレイな音が入っているので、ノンビリ聴いているだけでもいいですし、「滝の前にいるのが好きだな」とか感じたら、そこで野宿してもらったりして。正直、ゲーム的には「遊びにくい、やりずらい」と感じるような部分もあるかもしれませんが、そこを犠牲にしても世界観を再現した結果です。

石綿氏:ゲームを購入する方は、おそらくゲーム性よりも「蟲師」の世界に入って遊びたいと考える人が多いと思ったので、長濱さんやスタッフと一緒に世界観を重視していく結果になりました。「利便性って何?」っていう(笑)。

長濱氏:利便性は全然ないですよね(笑)。「サクサク行きましょう」とかではなくて、遠回り遠回りで(笑)。調合するために薬草を見つけて、取っていたらアイテム欄がすぐ一杯になってって。整理した後に採取して、調合するっていう。

――ああああ、ありましたありました(笑)。家で蟲を捕まえて、外に出たらアイテムが存在して蟲がいて、次のマップに行ったらまた蟲がいて。「あれ? どこのマップにも蟲がいるのか?」っていう(笑)。そして気が付いたらアイテムがいっぱいになって。でももう夕方になっているから「そろそろ家に帰ろうか」っていう感覚が。

長濱氏:それですよ、それですね! 「アイテムももっと持たせたい」というアイディアもあったんですが、当時ってそんなにモノを持てなかったと思うんですよ。だから、持てないようにしました。山まで遠出して、体力がなくなったら家に帰れないじゃないですか。だから、野宿して次の日に先へ進む。「蟲師」の人たちって野宿してそうですしね。でも外で寝るなら火くらい起こすだろうと。焚き木を灯して夜を明かす。焚き木のグラフィックが、細かくていいんですよね。

石綿氏:「TENKY」さんという制作会社がモデリングを担当しているのですが、すごく細かいところまで作りこんでいただいたんです。

長濱氏:ゲームの表示だと小さくて見えにくいんですが、実際にはどれもすごくリアルに再現しているんですよ。制作時に“ギンコ”の3Dグラフィックを拡大して見せてもらったんですが、目の緑色は再現されているわ、「蟲たばこ」はくわえているわ、とにかくすごい。……まあDSの画面に表示されるとわからないんですが(笑)。でもものすごい“ギンコ”の顔をしているんです。


――それはわかりませんでした(苦笑)。

石綿氏:そういう見えないところでも頑張っています。あとは背景ですね。あのキレイさをDSで表示することはできないので、ちょっともったいないことになっているんですが。

――でも、背景はキレイですよね。DSで見てもらうとわかると思うんですが、表示された時にいい感じになっていると感じました。そこに昔の日本の村があって、自然の音が入っていて。


長濱氏:丁寧に作っていったので、そう言っていただけるとうれしいですね。

石綿氏:村に石垣があるんですが、最初はブロックを使用したように整った石垣だったんですよ。それを長濱さんにチェックしてもらったら「石垣は「蟲師」の世界では、こんなにキレイに整っていないから、可能ならブロックの大きさを変えてほしい」と指示が来て、「なるほど~!」と感動しました。

長濱氏:あ~~、言いましたね(苦笑)。でもそしたらちゃんといびつな感じの石垣になりましたからね。ホントにちゃんとやっていただきました。

――あと、オリジナルのキャラクターにもかかわらず、まったく違和感のない登場人物もいましたね。

長濱氏:馬越嘉彦さんが書いてくれたので違和感はないと思います。重要なキャラクターだと、オリジナルキャラクターで蟲師の“ヤクノ”ですね。原作の漆原友紀さんが彼の名前を付けてくれました。いつも通りの直感で(笑)。

――いつも通りとは?

長濱氏:アニメには原作で名前がなかったキャラクターがたくさん登場するんですよ。するとエンディングテロップで「子どもA」みたいな感じになってしまうので寂しい。そこで「できたら名前をつけてほしい」とお願いしたら、1人1人に漆原さんが付けてくれたんですね。特に印象深いのは、「海境より」という話に海辺に住む色の黒い女の子がいるんです。彼女の名前に“ナミ”とつけてくれたんですが、原作でも1度も呼ばれないんですよ。でもTVのエンディングで名前を確認できて、「この子は“ナミ”って言うんだ」と、原作ファンの方にも、よろこんでいただきました。

石綿氏:“ヤクノ”も最初は、“とある蟲師”という名前だったんですよ。でも話のキーになるキャラクターで、「“とある蟲師”に育てられた主人公」とか、“ギンコ”が出てくる際も「“とある蟲師”から聞いたんだが」って違和感があるじゃないですか? それで漆原さんに名前をつけていただいたら、すんなりいきました。今回は本当にいろいろな方にご協力いただき、このタイトルの大きさに驚きましたね。

長濱氏:ありがたいですね。ゲームのセリフを取る時に、アニメの音響監督のたなかかずやさんが来てくれ、ミキサーも来てくれて、ガンガンやり直しを出すっていう(笑)。

石綿氏:アニメのメンバーがゲームに総集結したからこそ、できた作品です。




 次回は、DSを選んだ経緯や、普段のお2人についてお聞きします。

制作当時を振り返ってコメントしてくれた石綿プロデューサー(写真左)と、長濱監督(写真右)


(C)漆原友紀/講談社・「蟲師」製作委員会
(C)2008 Marvelous Entertainment Inc.

データ

▼『蟲師 ~天降る里~』
■メーカー:マーベラスエンターテイメント
■対応機種:DS
■ジャンル:SLG
■発売日:2008年1月31日
■価格:5,040円(税込)

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■関連サイト
『蟲師 ~天降る里~』公式サイト
マーベラスエンターテイメント